擦り減っていく言葉 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 磨り減った言葉は
 言い古されて薄くなっているから
 深く語ろうとすれば言いつのらずにはいられなくなり
 そうやって繰り返してはまた言い古される
 言えば言うほど書けば書くほど擦り減ってしまう
 擦り減ってとうとう言いたかったことさえ
 見失って

 たかが言葉だと思ってはいけない
 失うのは言葉の色だけではない
 意味の深さも強さも失われてしまうのだ
 
 そうなったら
 君よ
 黙り給え
 黙って思いの水が湧き出でるまで
 心を深い森の奥に秘して
 言葉を葉の堆積の下に埋もれさせるべきなのだ

 そうやって
 言葉が温もり意味が熟すときを
 こんこんと思いが湧き出でて止まらなくなる日を

 待ってこそ満たされていく
 そう
 言葉は愛のようなものなのだ
 慎重に絶え間なく
 湧き出す力を育てるようにしなければいけない

 失うのは言葉の力だけではない
 言葉に依って立つ生き物である人にとって
 擦り減った言葉を使うことは
 感情の干からびた日々を意味してさえいるに違いない

 だから
 そんなことを感じた日には
 君よ
 言葉は
 たった一度きりのために生まれる
 沈黙の泉のようなものだと知るがよい