小径 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある









 その小径は家からずっと続いている

 丘というべきか小山というべきか

 鳥が啼き栗鼠が木を穿(うが)ち鼬鼠(いたち)が棲む



 そこからは淡い色に和らいだ富士が

 まるでキリマンジャロのように宙に浮かんで見える

 ほぼ毎日のように小径は僕を呼んだ

 僕が必ず呼応するわけではなかったが



 冬の終わり間近に小径の脇の草むらに

 咲いていた白い小さな名も知らぬ花を友にするようにと

 雨が降り形のない流れができて風が凍て風が緩んで

 小径は少し安心したように僕に言った



 でも春がぱたぱたと止まらぬ足音で告げる頃

 昼下がりの小径から花は消えていた

 千切られた痕もなく踏みつけられたのでもないままに

 

 それゆえに僕はいつまでもその白い小さな花を

 探し続けるように運命づけられてしまったのだ

 小径の緑薫る夏も枯れ葉温もる秋の日も

 この冬もやがてくるだろうもう一つの春も



 死にもしなければ枯れることもないあの花は

 あの日つむじ風が掛けていった謎のマントを解く鍵を

 僕がこの手にすることができる日を今も待っている