夢に見た誰かの手 僕は水の中で眠ってしまっていたらしい 誰かの手が若い草の一振りを小指に挟んだまま 僕の目の前の水の中に突っ込まれる 柔らかなガラスが砕けるような水音がして 手は草を持ったまま透明青の水を掻いた 浅い緑色の草が水の中ではらはら揺れて まだ来ない春の歌を歌ったので 僕はその手を押しとどめて もっとよく聴こうとする そうして掌(てのひら)に耳を当てたまま 草のように濡れた指に口づけると 生温かい早春の匂いが 喉と鼻と唇でできた僕のなかに広がった それから君が笑って もういいよ と言うのが聞こえる