夢に見た誰かの手 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある










 僕は水の中で眠ってしまっていたらしい

 誰かの手が若い草の一振りを小指に挟んだまま

 僕の目の前の水の中に突っ込まれる

 柔らかなガラスが砕けるような水音がして

 手は草を持ったまま透明青の水を掻いた

 浅い緑色の草が水の中ではらはら揺れて

 まだ来ない春の歌を歌ったので

 僕はその手を押しとどめて

 もっとよく聴こうとする

 そうして掌(てのひら)に耳を当てたまま

 草のように濡れた指に口づけると

 生温かい早春の匂いが

 喉と鼻と唇でできた僕のなかに広がった



 それから君が笑って

 もういいよ

 と言うのが聞こえる