海に向かって | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある




 
 
 


 灰色の海に向かって僕は歌おう

 もはや遠くなったあのひとの声で

 濡れて重たげな砂浜で僕は踊ろう

 身近なあのひとの仕草を真似て



 荒れた海の果てしない接近と遠流(おんる)

 灰色の下に深く潜んだ暗い緑の海

 冷たい飛沫の中に微かに混じってくる春の匂いを

 どう受け止めれば良いのかを知ろうとする



 いつも僕に教えてくれていた海よ

 大気が暗雲と交じり合って泣くこの日に

 お前が与えてくれるのはただただ

 とよもす風と潮騒の色のないアンサンブル



 他はなく



 言葉もなく笑みも憤りもない海よ

 こうしてお前の送ってくれる湿った風の中に立ち

 打ち寄せる波のひと打ちひと打ちと

 砂粒の一つ一つを数えて過ごす今日の日



 おお愛することの生ま温かき愚かさよ