『顔』
人の顔にはいつも心惹かれる
美しいとか可愛いとか
あるいは男らしい
精悍な顔だとか
そういう価値基準でではなくて
顔を見ていると
その人の生き方というか
経験や望みのようなものが
見えてくるような気がするからなのだと思う
それは若くてもそうでなくても
男でも女でもだ
だからつい
人の顔を見ていて
「何だよ」と怪訝な表情で聞かれたりする
そういう喧嘩腰の誤解もあるけれど
もっと違う誤解も起こりうるのだろう
それはともかく
人の顔
ついつい目に目が行くのは
おそらく生き物同士当然のことなのだろうが
人の瞳というものは
じっと覗きこんだりすると
底なしの井戸かなにかのように
人を吸い込んでしまうような力があると思う
大きく開いて
深い奥へと
唇は
特に女のひとの唇は微かな動きがあるとき
恐ろしいほどの印象を投げてくるものだと
いつも感じてしまう
表情が
微かな動きの中に表情があるのだ
もちろん
目にも表情はある
けれど目は動きがなくても
相手を吸い寄せる
たぶんそれは僕がつい目を
目の潤い具合の下にある
瞳の奥を見てしまうからなのだ
そんなことをしなくたって
目は瞳孔の大きさを
ときには眩しげに
ときにはまるで闇を見るように変えるものだ
そんな瞳をうっかり見入ってしまったりすると
ひとの顔を描くなんてとても難しいことになる
手は止まり
ついつい呼吸は深くなり
心を凝らして
そのひとの奥底を眺めようとしてしまう
そういう自分を何処かで
ついと殺して
ただ手に持ったパステルを動かす時間
ひとの奥底を覗きこむのをしばし止めて
ただ記憶に頼って
けれどその脆い記憶の消えないうちに
見たと思うものを
紙の上に
確かな記憶にしていく作業
それは確かに少し奇妙な
人との関わり方なのかもしれないと思うけれど
それだけにまた
喪われやすい営みであるのかもしれないのだ
特に僕のように
生き方が不器用な人間には
