風の告げるもの | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 奇妙な予兆の感覚
 なぜか今年の風は格別に烈しく

 昨夜からもずっと哮(たけ)り続けている
 曖昧な態度を決して許すまいと

 衣を脱ぎ捨てた枝々のあいだの
 空気さえ切り裂くように

 家々の外壁を打ち
 乾いた冷たい火の咆哮のように

 鋭い声を聞いていると
 いつの間にか僕は吹きすさぶ風の中にいる

 海が色彩を拒んで
 風の下に平伏して動けなくなるなかに

 風は屈曲して自らを切り裂いていく
 そうでなくては風ではないと

 風は風を裂くものだ
 身をよじっては自らを突き抜けていく
 
 目には見えぬのに
 明らかに脳裏に届く風の姿は

 ダイヤモンドの竜のように頑(かたく)なに光って
 今という時間を切り裂かずにはいない


 そして来るべきものが
 静かに戸口にやってくる

 凍てる朝
 お前の胸を開(はだ)けてこの冬を抱けと