雪の水辺に舞うものを見た(2)でこの鷺が
じっと動かないと書いたのだが
実はいつもとは少し違うところがあった
いつもは完全不動でまるで枝になりきったかのような姿なのだが
今日は時々頭を下げたりする
それでもそこを動かないので僕も眺めるのをやめて
周回舗道を歩き出した

数歩歩いたときだった
枝の方向からひゅううと音がする
風が枝の間を勢いよく過ぎて枝が鳴ったのかと思った
しかしそれにつづいて
はっきりとわかる羽音
大きく羽撃く音だった
気配を感じて振り向くと
ちょうど大きな影が僕の頭上2メートルあるかないかを通り過ぎる
カメラを構えたが
オート・フォーカスは嫌いなので
という割には敏捷でなく
そして鷺は僕から4メートル足らずの手すりに降りてきた
カメラを構えたままだったので今度は撮り損なわない
着地の様子を連写する
ここで全部載せる意味もないので数枚に留めるけれど
細かな動きを興味深く僕は眺めながら
シャッター・ボタンを押していた
ばさばさと羽の音が聞こえる近さだ

首の羽毛を見れば
この雪の寒さのせいなのか羽が膨らんで首が夏よりも随分と太く見える
やがて鷺は片足をするりと曲げて腹の下に隠す
そこに居続けるつもりなのだ
雪が降っているときの風向きのせいなのか
池の周囲でも雪の多いところと少ないところがあったが
ここは随分と積もっている
雪景のアオサギ
他に羽音も鳴き声もない
微かに風の音が耳元を過ぎるだけだ
僕は立ち止まるのを忘れていたので
この間も前に進み鷺との距離は2メートルほどになっていた
近づいても危険は感じないということか
鷺はゆっくりとこちらを向いて
僕の方をじっと凝視する
どう言えばいいのかよくわからないのだが
目が合ったという感覚
そのまま彼あるいは彼女は姿勢を崩さずにいる
時折ふいと首を回して雪の方を眺めるが
また思いついたように振り返って僕を見る
餌付けしたという話は聞かないし
そういう光景や痕跡も見たことはなかった
けれど
こいつは意図的にそこにやってきて
何か言いたげにこちらを見ている
そういう気がした

こちらは個体識別ができるわけではないけれど
もし何度か出会って写真を写したのであれば
あちらからは
こちらがわかるという可能性はゼロではない
けれど僕がこの夏に撮ったアオサギは数多いはず
僕がシャッター音を盛んに立てても何処吹く風
この水辺に来る人たちが良き隣人であればこそ
こういうふうに心を許すのだろうとも思う
けれど近すぎる
そうやって随分と眺め合っていた
ときどき鷺は嘴を開いて鳴いた
それは鷺たちが水面を飛ぶときのようには大きくなかったが
それでも寒気の中で鋭く響いた
くぇえというような声

仲間を呼んでいるのかもしれないと思ったが
相手は現われなかった
さてどうしたものか
鷺は僕の行く手に降りたのでこのまま進めば
手の届く位置になる
おそらくそこまで行けば飛び立つだろうと思ったのだが
そうやって飛び立たれるのは少し悲しく
けっきょく二人は
いや一羽と一人は眺めあったまま十五分くらいが経過する
こういうとき僕は焦(じ)れて先に動くということを決してしない
そういう自信も実績もある(笑い)
二十分ほど経ったとき風が急に強くなって
何処か近くの枝からかなりの量の雪が落ち
下の草むらに当たって大きな音を立てた
驚いたというふうではなかった
まあこれ以上一緒にいても何もないとでも考えたかのように
一瞬身体を身構えてからふわりと浮き上がる
その動きに見とれていたせいなのかどうか
鷺の離陸はほとんど音を立てずに進んだ気がする
ほんとうにふわりだった
望遠鏡を何本も持って観察に出かけるタイプでもないし
野鳥の会のような集まりに入ってもいない
けれどこうやって鷺たちと接近遭遇を繰り返していると
いつの間にか彼らと離れがたく感じるようになっていた
彼らの一挙手一投足に関心を持つ
そういう気持ちになっているということはマニアだということか
けれど僕は鳥の種類を事細かに調べたりすることには関心がない
あるのはもっと個別的な関わりへの関心だだった
雪置くや弧鳥の我に鳴きかける
雪が降った水辺は人影も殆どなく
僕より前に歩いた人の足跡は残っていたが
水辺は雪の中で沈黙していた
実はこの日の接近遭遇はこれだけではなかった
どこか荒涼さを感じさせる風景を眺めて右に回る道
雪がまた降りだしていた
今日は本当に降り止まないなと思う
その雪の薄衣の緞帳の向こうに白鷺が居た
おそらくは若いダイサギだろう
実はこの夜に知ったことなのだが
ダイサギにも亜種があり
チュウダイサギとオオダイサギというのが居るらしく
(なんという命名法だ!)
ただでさえダイサギとチュウサギは見分けにくいのに
これほど細分化しているなら
野鳥の会の会員でもない僕にきちんとした区別ができるはずもないのだが
なぜそんなことにまで関心を持ったかというと
チュウダイサギは冬には日本から南下し暖かいところへ移る亜種らしく
オオダイサギはむしろ冬に日本に南下してくる亜種なのだという
つまり僕が知りたかったことは
この白鷺がそのどちらなのかということだった
オオダイサギなら本格的な冬を前にして
この突然の積雪を目指してやってきた新顔だということになり
チュウダイサギであったなら
それは暖かい地方に南下し損ねた個体だということになる
夏に出会ったダイサギより幼さというか若さを感じる
どの種であれ若いものが先頭を切って渡る可能性は低いだろうと思う
だとしたら
この若そうな美しい白服の鷺は取り残された鷺であるのかもしれなかった
一見堂々とそこに居るように見えるのだが
雪の中で左右を眺めやる首の振り方に
何か戸惑いめいたものを僕は感じ取る
それはただの思い入れ思い込みの類であるかもしれないが
200羽を超す白鷺が今はもうほんの二三
その数から推定されることでもあった
この鷺は飛び立つ前にこんな表情を見せたのだ
少なくともこの夏だけの知識に過ぎないが
僕は白鷺がこういうふうに何かを見上げるようにしている姿を見たことがない
飛ぶ仲間を見るのとは明らかに違う頭の角度

僕の直観は
「こいつは雪を見ている」ということだった
何か今まで見たことのない不思議なものを見ているような
微かな驚きと戸惑い
この水辺に舞い落ちてくる
この白く冷たいものは何?
仲間の羽のように白いが池の水よりも遥かに冷たい
これはいったい何?
そんな声が聞こえてきてもおかしくはない
例によって写真の圧縮率を上げなければならなかったので
拡大してもこの写真では明瞭にわからないかもしれないが
手元にある原サイズの写真のこの鷺の目は
僕の直観を裏付けているように思える
この水辺に舞い落ちてくる
この白く冷たいものは何?
この日最後になる本降りの雪が降り始めると
雪と同じように白い鷺は慌てたように
大きな木の陰へと飛び去った
この冬
何度かここに来ようと僕は思っている
それは今日出会った鷺たちのその後が気にかかるからだ
やがて束の間の本降りは止み青空が次第に広がってくる
空を飛ぶ白きものは鷺だけではなかった
用もあったので
実はメールして少し遅くなると伝えてはあったけれど
もうここを離れねばならない時間だった
急ぎ足で周回舗道を駐車場まで歩くと
その足音に驚いて鴨の仲間たちが
水際の草むらから烈しい羽音を立てて舞い上がった
















