あなたは風のように生きた人だった
旅立つときも人に知らせることもなく
ふっと思い立ったように出掛けていった
帰るときもいつの間にか
庭のマロニエの木の下で笑っていた
あなたは風の友だちだったのか
よくその忙しい手を止めて
耳を澄まし風の声が野を渡るのを聞き
風の手が木々の葉と草を揺らすのを
じっと眺めていた
そしていつものように
誰にも知らせずに旅に出て
風と道連れになり
やがて自らも風になったまま
二度と家には戻らなかった
私は風を聞くのでもなく
その足跡を追うこともないけれど
もしかしたらこれがあなたかもしれないと
花びらのように薄着をして
いつも風のなかにいるだろう
私は風になれずに
風になることも選ばずに
風に騒ぐ水面(みなも)となって
風の懐にいるだろう
風と生き風になったあなたへの
哀惜と悦びの象(かたど)りとして