たったひとりの木 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 涼しい丘の上に
 たった一本立っている木を私は好きになれない
 あまりにも私に似ているから

 遠くを見ている雲のように

 はぐれ鳥
 あくび猫
 みんな私に似ているから

 できるなら
 一本の木の枝にはぐれた鳥が休む昼下がり
 木蔭で猫が欠伸している風景を
 その美しい丘に雲がたなびく風景を
 私は微笑んで眺めたい

 木の遥か遠くから
 木の深き内なる幹として

 たったひとりの木でいいと
 静かに眠る木でいいと
 思う自分と遥かかけ離れた自分との
 枝絡み合う不思議な光景を

 深々と葉脈の色をした
 遠くを見ている目となって