ライムライト | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 ライムライト
  lime light

 カルシウムライトとか石灰灯
 あるいは灰光灯とも呼ばれるのだそうだ

 今の時代とうとう車が水素で走るようになったけれど
 水素は昔は飛行船に使われていた
 もっともかのヒンデンブルグ号は
 歴史に残る燃え上がり方で爆発し崩れ落ちて
 水素は打ち捨てられた

 水素と酸素を混合して点火すれば
 と言っても大爆発しないように
 火加減を
 と言うかガス加減を調節しながら
 2800度の高温の炎を得る
 しかしこの炎
 熱さは驚くべき高さだが
 いやそれ故にか
 青い仄かな光しか出さない

 ところが石灰を固めた円柱に吹き付けると
 熱せられた石灰が光を
 強い明るさの光を発するようになる
 だから僕なら「灰光灯」が一番似合う名だと思うだろう
 教壇の白墨もそうやって光るのだろうか
 話がそれるけれど
 「白い墨」とは何と巧みな命名だろうといつも思う

 それが舞台を照らす照明にされていた
 けれど偉大なるエジソンが電球を発明して以降
 この灰光灯は廃れ
 やがていつの間にか舞台で脚光を浴びた俳優たちの
 「名声」の
 あるいは「ひのき舞台」のメタファーになったのだそうだ
 桧は灯の木ではないのだけれど

 いつのことだったか
 ちょっと風変わりな物理の先生が
 「物が光るということ」と題する授業で
 灰光灯を再現してくれたことがある
 まるでそれは
 小さく弾けた太陽のように明るかった

 でも僕が「ライムライト」という言葉を知っていたのは
 言うまでもない
 あのチャップリンの名曲

 ストーリーの悲しさも
 灰光灯の行く末を心に刻んで作られたのだろう

 もともとの酸素と水素の作る炎は
 自体は極めて熱いけれど光は弱く
 誰か別のものを温めて光り輝かす

 目を射るほどに眩い光が
 美しい舞台をさらに美しく照らし出し
 そして消えてゆく
 明るい光の舞台を人々の目に焼き付けて

 僕は思うのだが
 それゆえにライムライトは永遠になったのだ
 決して忘れ去られることのない光に