井戸に落ちた夜 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 井戸に落ちた夜が
 水の底で光を見つけて浮き上がったが
 光は夜の手から逃げて
 野を包んだ

 月光樹の邨(むら)よ

 お前の額に涼風の接吻(くちづけ)を
 燃え上がる髪
 やがて涸れる孤独の井戸
 さんざめく夜の鳥

 闇よ今一度
 嗤(わら)って吾を撃て
 月に魅入られし我が胸の
 烈しき風をこのときにこそ断て