そこにある言葉 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 ぱさりと
 百合の花が喉元から切れて落ちた音

 なんだろうと耳を澄まして
 そうだったのかと気づくとき

 静かな廊下の日陰の奥の一輪挿しの紫の花
 俯き加減の面差しで
 しっとりと水気を秘めている

 ただ咲いているようにと活けられた
 花の無言に魅せられて見入るとき

 夕暮れに鋭く鳴いた鳥の声


 推移を追った言葉にはとても説明のできない

 そのときの


 匂うように
 沈められても艶やかな


 そこにあり
 ただそれだけの

 その言葉


 ぽつりとひと滴
 落ちてくる