胡弓悲しや | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



                    美しき夕景と月の胡弓に捧ぐ



 遠い灯りが点々と
 涙ににじむ
 薄墨色の夕暮れに
 孤独な帆柱が指さした

 この時が
 この今ある時が届くなら
 満ちたる月のさやけさを
 手にとりたいと
 この胸に抱けるほどに
 とりたいと

 胡弓悲しや
 故郷の遠い水辺の舟のうえ
 
 かなうなら
 かなうなら
 月よ届けよわが思い
 何千何百の夜こえて
 何億何千の波こえて

 ゆえあって
 ゆえあってこそ
 水に流せしその二胡の
 音を今でも聞く耳の
 あまりに悲しき
 愚かさよ

 かなうなら
 かなうなら
 波よ届けよわが思い

 その時のその月のさやけさを
 この胸に抱けるほどに

 かなうなら
 かなうなら
 波よ届けよわが思い

 何千何百の夜こえて
 何億何千の時こえて