5インチのキャンバス | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



  最近僕は5インチのキャンバスに
  手のひらに納まるキャンバスにハマっている
 
  大きなキャンバスはもちろんのこと
  かかえて歩けるスケッチブックも使わない
 
  紙の切れ端に書いて捨てられるメモのように
  描いては捨てられる絵だからだ
  悪戯書きをとっておく必要がないように
  気に入らない形も色も捨てられる

  指先の器用さは多少は要求されるけど
  小さすぎるソフト・キーボードにならされたら
  それはそれでキメの細かい肌に触れる指

  どんなペンどんな筆よりも気ままに
  好きなように指を走らせる
  線にせよ面にせよ意外な発見があるものだ

  例えば簡単に捨てられるから
  かえって一本の線ひといろの色を大切にし始める
  消してしまえば消し跡もなく消えていく

  ああ考えてみれば人生の
  ひとコマひとコマも同じこと
  消しにくい過去は重いけど
  すぐ消えるとわかるものはいとおしくなる

  いとおしんでいと惜しんで
  軽く触れて描く僕の世界の絵