雨が降っていたのだ
ずっと長い間
気づかなかった
何に気をとられてか
急にすべての音を捨てられて
雨の中にいた
バス停の透明な屋根の下で
誰かを待っていた
誰を
わからない
少し前までは雑踏を
歩く靴音と声と車の絶え間ない行き来を
気にして立っていた
けれど
いつのまにか
すべてが消えて
消えたことにも気づかずにいた
沈黙の中に雨音が聞こえなければ
雨にさえ気づかずに
いただろう
終わりなく
忍び足のように雨が屋根を鳴らしていた
誰を
いや
そうではないだろう
誰かではない
何かでもない
しかし
それが来る前に雨が降りだしたのだ
絶え間なく
息をひそめて
それが誰
あるいは何であったのか
決して思い出させまいと
雨が
透明な屋根に落ち
透明な流れになって
記憶の色を希釈して消してしまう
絶え間なく
そして
胸締めつけられるままに
立ち続ける
いつ終わるともしれない
決して見えることのない雨の中で
心臓を不規則に鼓動させながら
消え入りそうな音だけにすがって
すべてを忘れ
雨が降る

