砂の砦 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 消えていけばいいと
 誰が望んで家を建てるだろうか

 砂の山
 砂の城
 どこまでも高くと望みながら瞬く間に消える

 熱い風
 毛穴が身体から跳びだしそうなほどの暑さ
 産毛が逆だって風がその間を
 感情を燃え上がらせるように過ぎていった

 黒い砂鉄を含んだ砂にまみれたまま
 僕らは抱き合っていた
 肌と肌のあいだに風の隙間も作らぬように

 お互いの心臓が直接に叩き合っているのかと思えるほど
 波音に愛撫されるがままに
 酔い痴れていた


 そうして
 午後が傾き始めた
 風が強まり潮が満ち
 子どもじみた歓びのなかで作った砂の砦は
 音もなく崩折れて
 波に呑まれ
 砂は海水の中に巻き込まれ
 流された

 
 築くがよい何度でも
 そう海が歌った
 何度築いても私は砂の砦を突き崩す
 愛を解かした塩水が
 この星のすべてを覆うまで
 私はそれを止めないと