過ぎた一日 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



            静かな五月のピアノに寄せて 音だけのために 3


 考えたことさえない
 きょう繰り返された呼吸の回数

 おびただしい緩急の
 滑らかに揺れて過ぎた一日を

 在り得たはずのない
 背にひんやり落ちくる後悔さえ

 もう思い返しはしない
 すべて投げ打って生きると決め

 ただかくあることだけ
 息づくことだけを願いつづけた

 春の泉にほとばしる
 静かな静かなだけの季節の音

 軽やかに指を踊らせ
 息をころしたような グリサンド

 考えたことさえない
 きょう繰り返された呼吸の深さ

 ただそれだけをとも願っていた
 指に柔らかなピアノの

 胸の波頭を打ち砕いて進む曲