五月の氷 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 湧き上がる陽光と肌を打つ涼風の
 萌え上がる葉と茎と
 膨れ上がる花の五月

 緑の蔭に冷たく濡れた氷を見つけた

 うら若き花の顔(かんばせ)の
 陶然と眠る眉根の下
 瞳を静かに閉じて
 美しい尾根のような鼻に
 パンのように柔らかな頬

 川に墜ちたオフィーリアの死に顔とは違って
 肌の奥にはまだ生温かい血が通っていた

 それはあたかも生きたままの死

 煌めく水となって今にも流れ出しそうに

 うす青く透きとおる光の闇よ

 永遠に五月のからだを閉じこめて
 何処まで時を渡るのか