パンドラの唇 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



            Dior 754 Pandore を試した零さんの記事に触発されて



 すべての嘉きものを
 神々より与えられしパンドーラ

 暗い湖を見下ろす巌に独りで座る
 ルフェエブルの描いたパンドーラは
 贈られしものの重みに
 耐えながら
 放心したように
 遠くを見ていた

 最後の最後に
 開けてはならぬと言い含められたのは
 手渡された小匣(こばこ)ではなく
 血のように
 艶やかに透きとおる紅(べに)注(さ)して濡れた唇
 引き結んだ後で
 耐えきれずに開けば
 吐息のように零れる
 甘き厄災

 美しい裸身の膝の上に抱いた匣の中には
 怯えた影法師のように
 予兆が震えていた




pandora1
 J. J. Lefebvre の パンドラ は これ以外にもあるが またいずれ