垂線 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある





 まっすぐに
 視野を貫いて落ちた

 谷川を見下ろす絶壁から
 投げられた糸
 まっすぐに
 糸のように思えた
 水面につきささる垂線

 糸にしては光を遮る黒い翳り
 長く尾をひいた落下だった

 死ではない
 生きた

 鳥か



 水面に揺れる小魚を漁(すなど)るためかと見えたが
 流れにきらめく獲物の姿はなかった
 空白の水面に向かって

 一条の落下
 小さな羽を体側に添え
 まっすぐに落ちくる

 浅い水に向かって
 姿が見えぬほどの高みからまっすぐに来る

 ほとんど死を意味した
 水面に触れる瞬間に
 光のように反射して
 また空へ昇った

 何十秒か
 数分かも知れない
 静けさの後

 また落ちる
 


 あざとい刃の切っ先
 図り知れない無意味な飛翔

 落下と飛翔を鋭く分かつ一瞬に賭けて
 くりかえされる悲しき遊戯
 
 ああ
 お前にとって
 それが生きるということなのか

 剔(えぐ)られる水の面(おもて)に映る己(おのれ)を見るときは