after the rain | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 雨は嫌いではない
 空間を灰色のカーテンで覆って
 僕の思いを閉じ込めて
 そっと火照った熱を冷やすから

 でも同じように
 雨があがった世界も好きだと思う
 とくに濡れて潤った木々を見るときは
 そこはかとなく幸せになる

 束の間
 枝に寄り添うことを選んだ滴(しずく)
 濡れて静かな世界を映す
 水晶よりも透明な極小の万華鏡

 時々僕はその滴を指で掬(すく)って
 口に入れてみる
 世界を映す滴は苦いだろうかと
 でもそう思ってみるだけで本当は知っている

 枝と葉と花の匂いを与えられ
 束の間輝く世界を内に閉じ込めて
 雨の残した滴がとても甘いのを
 身体までがしびれるほどに甘いのを

 いつか僕が死ぬときは
 枝から数知れぬほどの雨露が
 風にぱらぱらと降る
 林の中に孤独に葬って貰いたいと願うほど

 僕はきっとこの小さな透明な光の粒を
 どんな宝石よりもそして誰よりもなお
 愛しているのではないかと思うほど




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