わたしは聞かない | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 わたしは聞かない
 なぜこうしていつもあなたに私が会いにくるのかを

 繰り返されるあなたの吐息を感じるためにだろうか
 暗く沈んだあなたの表情が
 ときどきそうやって
 青空のように澄み渡るのを見たいのか

 聞かないのは
 知っているからだ
 聞いたところであなたは決して答えてはくれないと
 あなたはいつも大きな沈黙だった
 それはこれからも
 決して変わることはないだろう

 長いこと用意されながら描けなかった
 まだ真っ白なキャンバスのように
 私が
 あなたの沈黙に告白し
 あなたの沈黙から聴くように

 庭の片隅に
 まっすぐに伸びて咲いた一輪の白薔薇の
 否定しがたい誇りと匂いに
 理由がないように
 
 わたしは聞かない
 あなたの沈黙の理由を

 それは今
 濡れた砂を踏みしめて歩く私の白い翼が
 はるか上空の希薄な空気のなかを飛びながら
 どうしてもあなたを忘れられないのと同じこと
 
 あなたは聞きはしなかった
 私が飛ばずにはいられない理由を
 いつもあなたと一緒にいるのではなく
 ほとんどの時を空で過ごし
 まるで暇だったから来たのだと言いたげに
 束の間の時間をあなたと過ごす
 本当の理由を

 だから
 私も聞かない
 あなたと私がそうしている理由を
 海と鴎の変わり得ぬ定め
 永久に変わり得ぬふたりの反復の理由を