季節のない土地 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 時々ふっと考えることなのだ
 もし季節というものがなかったらと

 季節の無いことを望んでのことではない
 四季の移ろいの美しい国に住んで
 春は花に陶然となり
 夏は陽光の強さと緑の葉のコントラストに酔い
 秋は木々の成熟の色に心騒ぎ
 冬は雪に閉ざされた静けさの中にいて
 僕は季節を
 そして季節があることを愛していると
 一年に何度となく考える

 もし花が一年中咲き誇り
 そのままに葉が色とりどりに着飾るとしたら
 僕は花と葉のどちらを愛でるだろうか
 いやそもそもそういう常春と変わらぬ秋は
 肌焦がすほどの陽光が吹雪を照らすのに似て
 矛盾している
 だとしたら季節の無い国なのではなくて
 どれかの季節しかない国しか
 考えられない

 僕がふと何かの折に考えるのは
 そういうことではなく
 季節ということそのものが無い世界
 そもそも世界の始まったときから
 移ろうことを知らない世界
 いや移ろうだけではない
 何かに偏ることのない
 春ならず夏ならず
 秋ならず冬ならず
 花咲かず花散らず
 雪降らず雪消えず
 鳥飛ばず鳥落ちず
 月はいつも太陽とともに天頂にあり

 そうなのだ
 そういう世界を思い描こうとすると
 物みな異様に色鮮やかに照り映えて
 来る音は硬質な塊となって鼓膜を圧する
 そんな狂った世界が僕の頭上を覆うように広がってくる

 けれど他に無季ということを考えようがない

 超然として全てが今あるがままに在り続けるとしたら
 過ぎてゆくという言葉も意味を失い
 誕生も死も生成も消滅もない
 なんという絶対的な世界だろうか

 そうして
 僕はやっと思い至る
 そこには生きるということも
 きっとあり得ないのだろうということに

 移ろえばこそ
 消え行けばこそ
 移ろわぬと見え消えぬと見える今が在るのではないかと
 失われるがゆえにこそ
 存在と呼ぶのだと


 冬の日に冬空に微かに兆す春の色を見た
 風が吹いて枯れ葉が舞い上がる悲しさが
 突如として
 激しい命の証しに思え

 生きてあるは移ろうことなりと
 枯れ葉の裏の葉隠れの
 小さな土くれが
 静かに断言するのを僕は聴く

 そして
 季節の無い土地を思う僕は
 忽然とこの土地からいなくなる