待たねばならない | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 人は待たねばならない

 枯れ落ちる秋の葉の向こうに降る新雪を
 凍てつく長い冬の向こうに春の兆すのを

 蕾が花と咲く朝を
 耐え難く洩らす忍び音を

 ひとひらの花びらの風に舞って
 黒き土の肌(はだえ)に落ちるまで


 力づくで
 人が時を早めることはできるかもしれないが
 そうやって育った促成の苗は
 何か大切なモノを欠いている

 強さと弱さを綯い交ぜにして
 昼の輝きと夜の翳りを彩る力
 それは時なのだ

 時は物ではなく手にとることはできないが
 それでも
 すべての出来事は<物>と<時>から成っている
 いや生きた者たちはすべて


 幹太く育った木から時を引き抜けば
 木はたちどころに崩れ落ち
 時が要素をつないでいたことを教えるだろう


 存在の中で
 獅子のごとくに眠れる時間を
 人はいつも待たねばならない

 その獅子が目覚める新しい朝

 待つ間に時は経ち
 そしてただ経っただけなのに
 確かに時が何かをしていったことを
 人は知るだろう

 自らが
 この星に産み落とされた
 <物>と<時>からなる
 ひとつの出来事であることも