月ボート | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 意識の夜の空深く
 三日月のボートに乗って
 君は旅を始めた
 君が大人になりかけた夜
 大人の「時の制約」に背を向けて
 いつまでも今の君でいるために

 夜空の海は
 ほんとは君の中に眠っている
 眠りが死ほどに深まれば
 その海は君を流れ出し
 外縁の見えない宇宙に変容する
 その海に君は月のボートを漕ぎ出した

 それぞれの人の海はどこまでもいつまでも広い
 そのことを自ら試し立証しようと
 星屑の波間を
 流星群の風に吹かれながら

 君のボートが進んだ道に
 金色と銀と炎の航跡を残し残して
 七尋(ななひろ)もある大きな櫂で
 しなやかにしたたかに漕いで行く

 生きてあることは
 身を切るほどの勢いで
 すべての停留場を飛び越して行くことだ
 それぞれの時刻表を笑い捨て
 大鷲の翼
 彗星の箒
 君のすべての友人たちを過ぎ

 君は旅を始めた
 君自身の深き海へと
 君が大人になりかけた夜
 どこまでも
 いつまでも行くために
 いつまでも今の君でいるために
 それが可能かどうかを知りたいと