風のように | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 そう

 きっと魂はあるんだろう

 でも今の僕には魂はない

 こうやって感じたり考えたりしている僕は魂じゃない

 僕だ


 じゃあ死んだ途端に魂が生まれてくるのか

 そうだとしたらそいつは僕じゃない

 今の僕が死んでも生きているのなら

 僕が生きているのであって

 僕は死んではいない


 こういう印象はどのみち僕の主観だが

 でも主観の持ち主が魂なんだとしたら

 僕にも魂があって僕がその魂だと考えなければならないなら

 それは僕の主観を

 僕は魂ではないと感じている僕の主観を否定することになり

 つまりは僕の魂を否定することになる


 僕が生きているということは僕の魂を否定することだ

 だってそれが魂の定義なのだと考えるから

 生きてたら魂と言う必要はない

 魂になった僕は僕なのか


 こうして輪廻の堂々巡りは果てしなくなり


 幾万もの魂

 きっと重かったに違いない

 そいつらは死んだことに気がついていなかった

 いつまでも生きていると錯覚していた

 じゃあその迷いを捨てて成仏したら

 魂もなくなるのだろうか

 なくなってどうなる

 僕ではない

 また別の軽々とした何かに転生する

 そう

 それはその新しい生き物の勝手だし

 僕が云々できることではない

 もう僕とは違うものなんだから

 それこそ世界の理

 仏に委ね奉るべきことなのだ


 ところで

 なぜ物でもないものに重みがあるのか僕には分からない


 できるのなら僕に

 死んだ人たちの

 物としての重みを返してほしい

 ほんの一時でもかまわない


 心とやらに

 響いてくる木霊のような重みではなく


 僕を抱き上げた身体の重みを

 僕が抱きしめた身体の重みを

 いや

 ただ指さし入れて遊んだ

 柔らかに長い髪の微かな重みでもいい


 あなたたちだという証

 僕だという証

 そのような僅かな証もないのなら


 それはもう本当に

 僕の関与できることではないから

 僕は気軽に言うだろう

 どんなものにも気軽になろうと

 道の石くれ

 丹精込めて祈り上げた曼荼羅の

 風に舞い上がる砂の粒

 吹き飛ばされた紙のかけらにでも

 折れた釘

 蝶の鱗粉

 貝殻の片割れ

 鳥葬にふされた遺骸の分子


 いいや魂にだってなるだろう

 どのみち

 それはあなたたちでも僕でもないのだから

 何ひとつ抗うことはない

 風のように

 気軽に

 どこへでも

 行くがよい