風は吹かない | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 あなたのために風は吹かない
 私のためにも風は吹かない
 誰のためでもない
 あえて言うならば
 風は風のためだけに吹く

 目には見えぬのに
 風の跡は木々の葉に枝に
 ときには花びらに
 静かな池の水面に
 美しく悲しく残される
 残そうとして吹いたのではない
 ただ生きただけなのだ

 風はあまりにも自由で
 つかまえることも
 ガラスの小瓶に
 閉じこめることもできない
 でもそこに

 それゆえに
 そしてそれだけの理由で
 私は風を愛し続ける
 私にはなりえなかった
 姿なき生のありさまとして