糸車 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 歩くときもあれば
 走るときも
 立ち止まり後戻りするときもある

 雨降るときと
 晴れわたるとき

 泣くときも
 怒るときも
 怖れるときもあれば
 笑うときもある

 じっと耳澄まして聴くときも
 喉涸らしても歌いたいとき
 座したまま息するときも
 手をとりあって踊りたいとき

 好きだと思うとき
 嫌いだと思うとき
 愛するとき
 憎まねばならぬとき

 静かに目を閉じるとき
 見開いて確かに見つめなければならぬとき
 ただ黙して聞くときも
 語り尽くさねばならぬときもある

 迷うとき
 待つべきときもあれば
 無謀は承知で走り出すとき
 逃げ惑うとき
 身を隠すときもあれば
 顔をあげ戦わねばならぬときもある

 生まれるとき
 死に絶えるとき
 知るときと
 忘れるときも

 護るとき
 育てるときも
 諦めねばばらぬとき
 打ち捨てねばならぬときもある

 その時々の
 時の起伏を顧みるとき
 その時々の
 時の機運に従うときも
 敢えて抗わねばならぬときもある

 花開くとき
 枯れ落ちるとき
 苗植えるときも刈るときも

 歓びに満たされるとき
 悲しみに打ちひしがれるとき
 生まれたことを嘉しとするときも
 この身を呪うときもある


 それらすべてのときを
 撚りあわす
 巡れる「時の糸車」
 錘(つむ)はこの手にあらずとも

 すべてのときを
 ただ
 我がものとせよ 時の子よ