まだ降りやまぬ蝉時雨
この熱波の海の闇の厚みのいずこから
おそらくはバルセロナの郊外の木立の蔭なる所より
あるいはキリマンジャロを見上げる草原の仮寝のシートの上から
聞こえてくる
爪弾くのはきっとあなたに違いない
会ったこともなし
顔も見えず
それでもあなたに違いない
ボクニハワカルノダ
あなたには自分の奏でる音が聞こえない
だからせっかくの調弦が
情熱のあまりに弛んでも
かまわずに
糸を弾(はじ)かずにはいられない
あなたは夕暮れの神
暁のしじま
うろたえる過去
何を頼りに
このように心震わす曲を弾(ひ)いてしまうのか
狂ったか
蝉が
命限りの音にたまらずにコンパッションする
流れ落ちる
灼熱の夜の音のスコールに
突然のインプロヴィゼーション
なぜそれほどになぜそれほどに
イキタイカ
襤褸(ぼろ)を着込んで気怠い顔をした神よ
世界を縫い合わせた糸は
この暑さで狂い世界もあなたの服もやがては
切れ切れの布きれの無意味な息切れの
ランダムネス
つながりの無い音の欠片に成り果てる
つながりの無い音の欠片に成り果てる
それでも僕はなお
あなたに酔い
この身体すべてを傾けて
この身体すべてを傾けて
歌を聴き
聴き続け
顔のない影だけのあなたを愛している
聴き続け
顔のない影だけのあなたを愛している
使い古した曲の変わらぬ顛末を
ただその古代リュートの音ゆえに