夏のツンドラか凍てつくサヴァンナの
あるいはブリテンの湿地の向こうに
その城は立っている
蟻塚のような奇態な塔を幾本も聳やかし
遠くから見ればそれは
峨々たる巌の山に見え
近づけばその蟻塚の砂くれの一粒が
巨大な石であると知れ
地表を覆う霧のなかに屹立する
だがそれは決して僕を拒みはしない
カフカのようにたどり着けない城ではない
僕は容易に城の中に入り込む
高い群塔の足元にある
すべすべと滑らかなアーチは石の虹
その懐には高みより光差し込む聖堂がある
黒曜石の祭壇に光は射しきて
空中の粒子の数々を浮き彫りにする
この城はまだ生きて上へ上へと伸びている
そこに入り込んだ者にとって
最大の驚きは城の止まることなき成長であり
その命にいつしか組み込まれることの不思議でもある
世の中が私利私欲と怠惰と傲慢と愚かさに滞るとき
城はさらに堅牢な城壁と塔頭を生成し
いつか世を叩き崩す夢を見る
いや夢ではない
もし世を叩き崩すべき時が来てなおそれが叶わないなら
城は巨大な爆薬に火を点けて
城のすべての石塊と鋭利な棘を
この世目がけてまき散らし
この世を石の上に石一つないものにするだろう
この城を築き続ける力は天上の神への崇拝ではない
現世への果てしもない怒りの故だ
もっとも美しき怒りの形となるために
城は人々の虚しき願いを吸収して
むくむくと天を目指して伸び上がる
時近づくと知る人は幾人(たり)か