野の花の影 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 竜巻が発生したり
 雹が降ったりして
 季節は揺れる

 一方で日射しは日焼けしそうなほどになり
 また一方では寒気が吹き込んでくる
 野に花が咲き誇り
 花と葉の匂いが広がる一方で
 強風が燕を吹き飛ばす

 おだやかさと激しさが入り交じる
 これこそが皐月

 これからの予想と
 今までの出来事とが
 相和すかと思えば抗争する
 そういう「今」が沸き上がる
 万籟の季節

 生の欲望の波頭が浜に砕けて
 流れ去るべき砂を濡らし
 どう生きてあるべきかと
 問いかけてくる

 野の花の目に鮮やかな色
 その花の色のない影
 強まる陽光にくっきりと形を映す時間が
 満ちて

 その影に花を想い
 花を見ては影を思う

 生きていることは素晴らしいか
 そう問われて理由なくうなづく

 すべてのものに明瞭な影のある
 澄明な時

 君の影に
 僕は足を踏み入れる





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