ダフネが一日の戦利品を
砂が付いたままテーブルの上に広げて
一つひとつ点検しては
順番に並べていくのを
あのひとは目を細めて眺めている
「ずいぶん長い散歩だったね
ビールが冷えているよ」と言う
「浜の魚屋が刺身を持ってきたことだし
土産もたっぷりあるようだから
乾杯といこうか」
僕は頷いて
ダフネが土産を並べているあいだに
シャワーを浴びることにする
更衣室の鏡を見ると肩や腕が日焼けして赤くなっていた
まだ夏になってもいないのに
僕は泳げる日を
この崖の家の夏に泳いだ日を
また過ごせるのだと思う
ぬるいシャワーの湯が身体に快かった
こういうことが生きていることなのだと
街に住んでいると何だか皮膚が干からびる気がする
海の傍はいいなと思う
今日はシャワーだけで済まそうと
潮と砂の絡まった髪を洗っていると
ダフネが裸で飛び込んできて
さっさと僕の前に入り込んで
シャワーを横取りする
ダフネの髪も砂だらけになっていた
髪を濡らして持ち上げた首筋が
丸くTシャツの形に日焼けして赤くなっていた
シャツを陽射しが貫いたのか
両肩もほんのり赤くなっている
ダフネがシャワーと僕の間に割り込んだので
しょうがなしに僕は譲り
横からダフネの顔を覗き込む
シャワーに濡れた鼻の頭と目の下にも
鎖骨から胸の上辺りまでにも
丸い太陽の跡ができていた
「ダフネもずっと歩いていたのかね」と
笑顔のあのひとが
大きなサラダ・ボールと黒ビール
ダフネには冷たいミルクを並べながら聞く
「意外とタフなんですよ」と僕
黒ビールの濃い味が喉に快く
ダフネは渇いた鹿のようにミルクを一気に飲んだ
「あなたがかまわなければ」と
僕は一日考えて出した結論を持ち出す
「ときどき僕の友達にここに来てもらおうかと思うのですが」
「友達?」
「僕ら男だけだと
ダフネのこと分からないこともあるんじゃないかと」
「ほお」とあのひとが少し驚いたように言う
「つまり女性の?」
「だめですか」と僕は聞き返す
「いやいや それはいい考えだと思うね
私がちょっと驚いたのは
君にそんなことを頼める女性がいたということだよ
その人にはダフネのことを話して
了解ということなんだね」
僕は何も相談などはしていない
ダフネの話どころか
僕がこの家に引っ越したみたいになっていることも
でもこれがいいことなのだという
確信めいたものがあった
ここでこの奇妙な家族と一緒に住んでほしいというのではない
ときどきダフネのことを
考えてくれる女性が必要だとだいぶ前から思っていた
でもそれはあのひとが言ったように
あのひとの姪でもいいと思っていたのだが
Mの短い手紙を読んでから
このことは少しずつ僕の頭の中で膨らんでいた考えだった
ダフネの母親になってくれと言うのではない
もしかしたら少しばかり年上の女友達として
Mならダフネの言葉にならない言葉を
理解してくれるかもしれないと
そしてダフネと暮らすことになった僕を
理解してくれるのもMならばと
それは
何の根拠もない
ほんとうにただ頭の中に
あるいは少しだけ胸の中での考え
どういう未来があるのか予想することもできないまま
僕は
誰かそういう女性の存在を探していた
Mが「そんなこと変よ」と言う可能性もあった
でも
きっとMはNoとは言わないだろうという確信めいたものがあった
それは僕と一緒にいるためではなく
ダフネをきっとMは理解して
よい友人となるにちがいないという感覚だった
僕を知っているMだからこそ
「もう私が言ったことなど忘れているのかと思っていたよ」
とあのひとが穏やかな顔をして言う
「ダフネも大きくなっていくのだからね
君が現実的にダフネのことを考えていると知って
私がダメだなどというはずもないだろう
ただ」とあのひとはダフネのほうを見やって
「この子が受け容れるかどうかは」と言いかけて少し黙り
僕のほうに目を向けてから
「君がいろいろ考えているのだろうし
君のどういう人であるのかは聞かないでおこう」
「ありがとうございます」と僕は
背筋を伸ばして礼を言う
ダフネが楽しそうにサラダをフォークでつついているのを
あのひとも僕も横から眺める
あるいはこれは賭けなのかもしれないと僕は思う
それでもそれは賭けてみなければいけないような
賭けなのだと
「新しい家族の集合に乾杯」とあのひとが静かに
黒ビールの褐色の泡が静まったグラスを持ち上げた