二日前にはまだ
庭の芝生に小さな雪のかたまりのように
風に吹き落とされた梅の花が散らばっていたのに
今日は向こう側の山裾に
ほんのり淡い桜色が見える
新しい知らせがあった
決心のつかない僕の代わりに
年長の友人が電話をしてくれたからだ
踊り疲れたのか
今日のダフネはテーブルにひっかかった布のように
あまり動くこともしないで
風に揺れている
電話の相手は丁重に礼を言いダフネの無事を喜んで
こんなことを言ったそうだ
いくら先生でも
大変だったのではありませんか
あの子は人を寄せつけず
触れられることさえ激しく拒む
目が合っただけでも
家中のものをひっくり返してしまう
そんな子を数日とはいえ
それに答えてあの人が
いや全く問題はなかった
すっかり私の知り合いになついて
拒むどころか踊っていないときは
いつもそばにくっついていると言うと
相手はひどく驚いて
それはとても大きな変化かもしれないと
そのことを親戚に伝えたいと
二度目の電話は
ダフネの叔父夫婦が日本へ向かうことを
二三日もすればここに迎えに来られるだろうということを
伝えてから
ダフネは特殊学校でバレを習っていたのだと
習うというより踊ることで
ダフネが治るのではないかと思われていたと
不幸な出来事があったから
ダフネは奇妙な態度を示しているのだと
僕たちは思っていた
でもそれは少なくとも一部分は順序が違っていたのだ
その話を聴きながら
僕はダフネがふらふらさせている白い足を眺めた
咲き始めた桜の花びらよりなお白い
色を失った香油の蝋燭
あの大きな瞳の不思議な眼差し
くるくると果てしもなく回りつづけるターン
ひどく稚拙に聞こえる言葉
何十回となく繰り返されたファントモ
美しく繰り返される動作
それがどういうことなのかに
僕はゆっくりと気づき始めた
やはりダフネはふつうの子ではなかったのだ
孤立した者としてだけ見ていた僕は間違っていた
黙り込んで言葉を探していた僕の前に来て
陽光を遮った年長の友人が言った
「君が望むなら私がダフネをひきとろう
その口実は
いや口実ではない
理由はもうすでにじゅうぶんすぎるほどだ」
偶然の遭遇を仮初めの道行きをおおごとにしてはいけないと
僕は反論したが
年長の友人はオヤジのように笑って
「そうそう」と今思い出したかのように
「ダフネはまだ十一歳だそうだよ」とだけ言った
ひとつだけ知りたかったのは
そんなダフネがなぜ僕のそばにはいようとしたのか
ということだった
そうであってほしくない答ばかりが浮かんできた
花の咲く季節に異国に落ちた蕾のダフネ
君の硬い殻を突き崩せるものが
踊ること以外に何か
あるのだろうか
あの堅固な岬が明日には海へと崩れ落ちていることよりも
遥かにあり得そうもないことだと
僕は思った
春の激しい嵐でも来ない限り