黒いダフネ | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 ダフネの肌の色は白
 頬と言わず腕といわず
 ほんのりピンク
 実に愛らしい顔立ち
 でも
 氷る瞳

 なぜだかはわからないけれど
 ダフネは花の国に帰りたがらずに
 領事館からも逃げ出してしまった

 日本が好きなのでもない
 ただ
 そこにダフネが生きていた場所があるから

 ダフネの国では黒は神聖な色
 黒い服を着たダフネの
 草の茎のような姿を見ていて
 僕には断然全然違うことが
 まざまざとダフネに重なって見え
 目をこする

 『黒いオルフェ Orfeu Negro』
 そう言えばその監督も名前はカミュ

 強烈なサンバのボサノバの
 止められない恋の
 たぎるような肉体の
 果てに訪れる
 無意味な死

 冥府の門を出るまでは
 エウリュディケーを振り返ってはならないと
 ソドムとゴモラにできた塩の塔でもあるまいに
 わずかな不安に振り返り
 永遠に妻を失ったオルフェウス

 現実のリオ・デ・ジャネイロのカルナヴァルに
 エウリュディケーを追って見え隠れする
 死神の仮面の男の姿
 感電死という現代らしい事故死にも
 神話が重ねられていた

 僕の見る幻影の原点だったのかもしれない

 終幕で踊る子どもたちは
 次の世代のオルフェとエウリュディケー

 その子どものひとりのように
 少しコミカルに踊るダフネ

 僕は君に恋することはない
 けれど
 泣きたいほどに思うのだ

 エウリュディケーにならぬよう
 死神にだけは気をつけろと
 冥府の門に堕ちる前に
 君を産んだ
 花の国に帰るべきだと