雨音の向こうに | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 雨音の向こうに在るものは

 濡れそぼった木々の立ち尽くす林の

 果てしもなく繰り返される波紋の

 立ち止まった傘の

 小さく唇噛んでいた裸足の少女の

 柳の揺れる川端の

 朽ちた家の

 甦る故郷の

 濡れて走り去る風の

 迷子の白い仔犬の

 水滴の光抱く花びらの

 あなたのくずおれそうな微笑みの

 雨を集めて速き小川の

 転がりながら流されていく笹舟の

 人の消えた浜辺の砂の

 係留された帆船の

 堕ちるように飛びくる海鳥の

 野原に忘れられた空き瓶の

 胸焦がすほどに

 為すすべもなく美しく

 忘れがたき甘き匂い