断崖城 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 なぜ王たちは城を欲したのだろう
 国を民をまた自らを守るためにか
 ならばなぜ脆弱になるのを恐れもせずに
 白鷺のように美しい城を

 なぜマチピチュはあの高みに築かれたのか
 城が目的の場所ではなかったとしても
 あの人を寄せ付けぬ高みの意味は

 高みは支配の威光を示すのか
 あるいは太陽神に近づくために

 アルセーヌ・ルパンは奇巌城に住んだが
 ホームズもポアロも城には住んでいなかった

 高みは何か秘めたるものを
 指し示しているのかもしれない
 あるいはそれゆえに人々から孤絶することを
 
 人を愛し人を好んだとしても
 ときに人は孤独を必要とする
 しかもそれは疎ましい人々からの孤絶ではなく
 むしろ親しき者愛するものたちからの孤絶

 それがなぜなのか
 僕にはわからないが
 僕もまたそういう城を必要とする者だ
 断崖絶壁の退路なき城を

 おそらくそれは戦うための城ではない
 空に昇り行く城
 孤高の空へ誘う城だ

 すべての愛を
 捨て去って昇る
 虚空への塔