その舟は
岸辺を遠く離れた沖合いの
薄靄の中に
一日に二度現れる
暗い水面に月の声
たゆたう時に
影絵のように
あなたが愛されることを望むとき
吐息がかすかに行き来して
伸び上がる
あなたの影の
耐えきれぬように揺れるとき
想いを受けて帆を広げ
渡れぬ海を渡ろうと
繰り返し
寄せては返す潮騒の
高まってはまた消える
夜半の海の煌めきが
深き眠りに掻き消えるまで
つなぎとめられない幻の舟
二度目は
月が沈んだ東雲の
褥の温もりの中で目覚めては
移り香の消え去ることのないように
あなたが愛を確かめるとき
朝凪の浜を歩く夢
決して終わることのないように
切ない願いに胸熱くして
乳房のごとく白き帆を
風なき海にゆらゆらと
揺らして時を測ろうと
渡れぬ海を渡る舟
うつつと見えてまた幻の
朝の光に消えなずみ
やがて
陽炎のように消えてゆく
つなぎとめられない漂流の舟