街角のM | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 寒くなっただろ だから ダウン・ジャケットに
 したんだけど 足がヒューヒュー寒くてさ
 ゆっくり歩くとなおさら寒い
 だから駅まで突っ走ってみたのさ
 そしたら無茶苦茶寒くてハーハー言ったけど
 何バカやってんだと思われながら
 夕暮れの人混みぬけて駅前近くまで
 来る頃にはけっこうホットでさ

 そうして
 いつもの角を曲がったら
 「止まれ 馬鹿者 危ないぞ!」って
 走る横からMの声
 「何してるんだよ そんなとこで M 」
 とオレが聞いたら
 「馬鹿が走ってくるの待ってたのよ」と
 殺し屋にでもなれよ M
 そんなに待ち伏せがお好きなら

 服はいつもの黒っぽいパンツ・スタイルで
 ベージュの長いコートを着ているところまで
 Mらしく スナイパーにもなれそうな
 ところが
 驚いたことに髪の毛がショート・カットで
 「うわっ パッツン」と言ったら
 真面目な顔で「違うわよ」
 「なんだ 失恋でもしたのかよ」と
 意味もないカラカイ言葉をぶつけると
 「殴るからね」と醒めた真顔で

 Mには月蝕の夜以来会ってなかった
 オレははっきりあの夜の
 「私の王子様は傘を押さえてくれた人」を
 胸に刻んでる

 あまりに古い記憶の中の
 雨降りの日の街角で
 小さな
 オカッパ頭の女の子が雨の中でスッテンコロリン
 転んだような気がするが
 そんな出来事はどこにでもある
 夢物語のロマンチックなエピソード
 自分に関係するかどうかなんて
 考えてもしょうがない
 でもオレは覚えてる
 スルリと胸に刺しこまれた細いナイフみたいに

 すっとオレの前に回りこんで来て
 「正式に申し込もうと思うんだけど」
 え? いったい何を?そして誰に?
 狐につままれたような鼻してるオレに向かって
 「クリスマス・イブにデートしようよ
 他に予定がないのなら ないよね」と
 にこにこしながらMが言う
 オレはぼんやり考える
 いつものことだ いつでもMが出し抜けに
 何か言い始め オレは言葉につまってモゴモゴになる
 「デートって? どこか素敵な場所にでも?」
 「ううん Kちゃんとこで一晩過ごす」
 それをデートって言うのかよ
 
 クリスマス・イブをMと?
 そう頭の中で言ったオレ
 もう後少ししか
 クリスマス・イブまでの時間がないことに気がついた

 「どうして髪切ったのさ」と
 時間稼ぎに聞いてみる 答はきっと
 「別にー 切りたかったから」だろうと
 そしたらM まったく予想通りの回答で
 でもそう言われた途端に
 そうじゃない気がしてしまう

 「そうだなあ」
 「相変わらず優柔不断ね Kちゃん
 いいわ まだイブまでは何日かある 考えといて
 Noが来なけりゃ行くからね」
 また相変わらずのM

 「駅まで一緒に歩いて行っていい?」と
 横に並んで歩きながら
 少しうつむき加減で聞いてくる
 おいおい そんなこと聞いたことあるか
 妙におとなしいじゃないか
 「珍しいこと聞くなあ」と言って
 すぐ後悔させられた
 「デートにすぐウンて行ってくれないヤツには
 おとなしそうに聞くしかないでしょ
 ストラテジーとして
 そこまで言わせたんだから
 Noは無いと思っておくね」

 駅前で太ったサンタがレストランだかの看板持って
 ジングル・ベルなんか流しながら
 「イブのご予定はありますかな?」と
 道塞がれたMがサンタに
 「メリー・クリスマス 一足早いけど
 あなたにもいいクリスマスが来ますように!」と
 大きな声で
 驚いたかサンタが「ホーホーホー」と言う

 街というところは人がいるところなんだから
 サンタもタバサもサマンサも
 太郎も次郎も花ちゃんもいるわけで
 もしかしたらトナカイだって走ってくるかもしれないが
 そんなロマンチックな街角に
 Mとオレもいるのだろうか
 と考える
 
 「じゃあねぇ」とサンタの後ろからMの声
 オレの「おい ちょっと待てよ」を
 Mは聞かずに改札口をくぐって行った
 



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