
尾州犬山(愛知県犬山市)の酒屋の話。
弘化4年(1847年)の春、ある日の深夜、酒屋に鼻の高い異相の人が現れて「酒をくれ」と言う。酒屋の主が酒を与えると、升でガブガブと飲み、あっという間に数石(1石は10斗、1斗は10升で18リットルだから1石は180リットル)を飲み干してしまった。
主は「これは化け物だな」と思うと不思議と恐怖感もなくなり、普通の客に接するように対応した。すると異相の人は「酒を飲ませてくれたから、何でも望みを叶えてやろう」と言う。
主は「特に望みはないが、最近、女房を亡くして哀しい。女房が生き返ってくれればこれほどの望みはないが…」と言うと、異相の人はいずこかに去った。
その後、異相の人はまた酒屋にやってきて、自分の懐から小さな人を取り出して「これはお前の女房だ。約束を守ったぞ」と言って再び去った。
小さな人は、みるみる大きくなり、若い娘になった。娘は疲れているようだったので、その日は寝かして休ませてやった。翌朝、娘に尋ねると、呆然としながら「私は江戸新川の酒屋何某の娘」と言う。主は使いを江戸までやって確認させると、その酒屋では「娘はこの月の初めに姿を消してしまった」と言う。
これは大変だと、酒屋の主は娘を江戸まで連れて行くと、娘の親は「これは神様の縁結びに違いない」と喜び、酒屋の主と娘とを夫婦にしてやった。
事々録 巻の二(江戸時代の奇談集)
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