娘が、1歳半の時だった。
年賀状に使おうと、娘の写真をたくさん撮った日だった。
その日の夕方・・・、あたしは母から電話を受けた。
「お父さんが何回電話しても出ないのよ。」
母も、リウマチをわずらっているので、
店には毎日通っていたわけじゃなかった。
「電話してもつかまらないから、
あんたのとこに連絡でも行ってないかと思ったんだけど・・・」
この電話で、あたしは母の気持ちを察する事が出来なかった。
「ウチには連絡来てないよ?また釣りにでも行ってるんじゃないの?」
父が何も言わずに出かけてしまう事なんて、日常茶飯事だった。
気づくと、釣竿と共に姿を消してたり。
ゴルフバックと一緒に消えてたり。
そんな事の多い父だったから・・・。
「そうね・・でももうお店開ける時間だしね、こんな時間までいないなんて
あんまりなかったから・・・」
確かにそうだった。
前の晩から釣りに出かけても、
どんなに疲れていたとしても、
店を開けない事は絶対にしなかった。
正月まで営業していたくらいだった。
次に母から電話を受けたのは、夜の7時をまわっていただろうか、
あたしが電話に出ると、
「あぁ。ききょう?あのね・・・」
普通に聞こえた母の声がだんだん震えだした・・・
「お父さん・・・やっぱりだめだったわよ・・・お風呂で・・・・」
後は声になっていなかった。
思わず、声が大きくなる。
「えっ?うそでしょ?えっっ?」
心臓がドクドクいいだした。
いつか来るとは思ってたけど・・・
それは病院で・・とか
倒れたって知らせを受けてから・・・とか。
ある程度の心の準備が出来ているような、
そういうものだと思い込んでいた。
まさか・・・こんな突然だとは・・。
「すぐに行くから!!」
あたしがそう言うと、母は
「今、お兄ちゃんにも電話したからね、お兄ちゃん来てくれるっていうから、
あんたは赤ちゃん抱えてるんだから、ムリしなくてもいいのよ」
そう言った。
こんな事を言う母が少し悲しかった。
でも、そうは言われても、行かずには居られない。
娘を連れてでもきっと行っただろう。
実の父が死んだんだ。
幸い、ここには旦那のお母様が居る。
あたしは急いで隣に行った。
電話するより早い。
お母様に父が亡くなった事を伝えると、
あわてて顔を手で覆い、奇声をあげ、
涙を浮かべているようだった。
あたしには涙はない。
なんでそんなにすぐに涙が出るんだろう?
と不思議にさえ思った。
娘を、お母様の家に連れて行くのは、
それと同時にいろんなモノも持っていかなきゃいけない。
だから、仕方なくお母様に来て貰った。
「とりあえず、様子を見に行ってきます。
どうなるにしても、一度帰ってきますんで、それまで不便ですけど
お願いします。」
そう言って家を出ようとすると、
「あ、ももちゃんお風呂まだでしょ?どうする?」
そう聞かれた。
正直・・・、今はそんな事どうでも良い。
そう思った。
1日くらい入らなくたって死にはしない。
そのくらい自分で判断してくれよ・・・。
こっちはそれどころじゃないんだから!
気が動転して何も考えられなかったはずなのに、
あの時、そんな事を思ったのを覚えてる。
そして、自宅から車で30分ぐらいの道のりを、
「落ち着け!落ち着け!」
そう何度も自分に言い聞かせながら、ひたすら走った。
11月だというのに、1月の寒さを思わせる、
とっても寒い日の事でした。