私の手元に、当日のオフィシャルカードが、当時のまま残っている。そこには試合開始のセレモニーに出た法政の4人の幹部の他にQB#4岡本がオフェンスキャプテンとして登録されていることや、関学がコイントスに勝って後半のチョイスを選択したこと、後半のタイムアウトを両チームが3回ずつ使い切っていたことなどが記してある。ただ、得点の経過は第3Qの両チームの7点ずつの他には記載がない。第4Qの残り7分に、いかに緊張した時間が過ぎていったかを物語るようだ。
そして、そのカードの裏には、ライスボウル出場を決めるためのコイントスの結果が記されている。 両チームが11人を選出し、キャプテンから始まったコイントス。私は関学側にいて、その様子を見ながら結果をオフィシャルカードに記していった。もちろん試合後のコイントスは初体験。TVのカメラマンやスチール(新聞)のカメラマンが構える中で、主審が両チームの一人ずつを呼び、コインを空中に投げ上げる。1回目法政、2回目法政、3回目関学、4回目関学5回目も関学・・・・・プレイヤーたちは、結果に一喜一憂するでもなく、軽口をたたきながらの抽選会といった感じだ。あと3人連続で関学が当てれば関学のライスボウル出場が決まる。ところがここから法政が逆に3連続で的中、リーチとなり、そして9人目も法政が的中させ、法政の出場が決まった。
試合が終わり、審判はポストゲームミーティングへ。どの顔にも緊迫した試合を終えた安堵と第4Qの攻防をナマで見届けたという興奮が見て取れた。一言ずつの感想でも、このような試合で笛が吹けたことへの感謝の言葉が続いた。「お疲れ様でした」最後に主審が締めくくり、甲子園球場でのミーティングは終了した。
その後、審判部主催の懇親会に参加、岡山時代に世話になった関西の友人たちと楽しくも騒々しい酒を飲み交わし、翌日の仕事のために、夜の新幹線に飛び乗った。関東から派遣されたあと2人と随行の理事、私も含めて疲れはピークだったが、試合の感想が次々と飛び出してくる。関東の覇者法政は昨年まで甲子園3連敗。それ以前の出場でも初出場して初優勝した1972年以来、勝利から遠ざかっている。今回の引き分けは他力本願ではあったものの、今後の彼らに大きな実現可能な目標を与えたことだろう。もちろん、関学にとっても、次への糧となったものと思ってる。
そしてその後も法政は関東は制するものの、甲子園では新興の立命館や関学に苦杯を喫し、2回目の甲子園単独制覇は2000年までお預けということになる。
何年か過ぎたある秋の日、なにげなくつけたケーブルTVでXリーグの試合を中継していた。得点圏にボールを進めたチームが第4ダウンを迎え、キッカーがフィールドに入ってきた。30ydほどのフィールドゴールを易々と決めた後に、テロップが「キッカー太田、関西学院大出身」と流れた。キックを決めてベンチに戻る彼の笑顔に、「俺はキッカーだ」という自信と「フットボールを続けてよかった」という喜びが表れていると感じたのは、私ばかりではなかっただろう。
あれから10年が過ぎた。甲子園ボウルで笛が吹けたら審判を引退する、と家族に公言していた私は「健康にもいいんだから、もう少し続けてみたら」という妻の一言で、仙台、埼玉、そして秋田で今もグランドにゼブラシャツを着て立ち、笛を吹いている。
(完)
残り時間は8秒をしめしていた。タイムアウトを取ったことで、スパイクで無駄な1~2秒を使わなくても済むが、多めに見積もってもあと2プレイが限界だろう。甲子園を埋めた3万3千人の観客は、プレイが終了する毎に大歓声をあげ、次のプレイコールが始まると静まり返るという状態を繰り返していた。自分自身の心臓の音が聞こえるような緊張感を味わっていたのは、なにもプレイヤーやコーチばかりではない。ゲームを構成する一員としての我々も、同じような緊張感に包まれていた。
時計は停まっていたが、関学のハドルが解けるのは早かった。この一年間の集大成ともいえるプレイになるのだろう。私自身はこの瞬間に立ち会うために審判を続けて来たようなものだ。
沸き立つ関学ベンチから、小走りにキッカーがフィールドに入ってきた。心なしか緊張しているようにみえた。前半でフィールドゴールは外しているものの、第3QのTFPは確実に決めている。気になるといえば、そのTFPのキックもゴールポストやや左寄りに決まっていたことだ。彼の胸中にそんな思いがあったのだろうか?ゴールポスト右下にセットした私は、相方の審判と守備側の人数確認を終え、自分の見るポールの内側を通るであろうキックを待った。
次のキックオフ、関学は時間を使いたくないか、一発リターンタッチダウンを狙うかの選択を迫られているだろう。私はリターナーの横位置のサイドライン上でロングリターンに備えてセットし、キックを待っていた。時計はリターン側がボールにタッチしてから動き出す。法政にしてみれば、できるだけ時間が消費され、かつリターンが短くて済むことが理想的なはずだ。
第1ダウン、QB高橋はドロップバックからDEのチャージを避け、外側に出ながら15yd程でアウトにカットしたSEにパスを投げた。SEはキャッチし、そのままアウトオブバウンズへ。14ydsゲイン、ファーストダウン獲得、しかし12秒消費している。「時計は審判の(計時停止の)指示から4秒ほど進んでしまっていた。それを主審が見逃さず、きちんと残り時間を戻した」(「59秒の真実」より)。主審が場内にアナウンスし、試合再開、再び第1ダウン、エンドゾーンまでは62yds、残り47秒。
時計はファーストダウン獲得で停まっているが、次のレディ・フォー・プレイで動き出す。両ベンチから慌ただしくサインが入る。ボールがセットされ、主審がレディ・フォー・プレイをかけようとした時には、攻守ともセットし終わっていた。まだハーフラインを少し法政陣内に入ったところだ。スナップされたボールはすぐにアウトカットしたSEに投げられ、そのままサイドラインを割った。6ydsゲインして、法政陣41yd、残りは16秒。