白タクでホテル(なんとヒルトン)に到着したのが午前10時半。
大学が中心の町だからだろうか、夏休み中ということもあり、改修工事の真っ最中で、あきらかに中南米系と思われる人々が従事していた。カウンターも仮設のもので、この時間はチェックアウトの作業が行われている。
私「どうする?まだチェックインできないね」
S「荷物を預けて、その辺散策しますか」
私「そうしよう」
ということで、荷物をクロークに預け、預り証の半券を受け取って、真夏の太陽が照りつけるテキサスの田舎町に出かけることにした。
もちろん、パスポートや現金などは持参したセカンドバッグに入れ替えて。
雲ひとつない快晴。日本では経験できないような360度山のない平坦な土地だ。
もちろん大きなビルもない。日本人もいない。
S君は現金を持ってきていないという。さすがに海外旅行慣れしてるだけのことはある。クレジットカードですべて決済するなんて、おしゃれじゃん。
すでに書いたが、アメリカは最も禁煙が進んでいる国だ。でも、東京の千代田区や中央区みたいに歩行中の喫煙には制限はないようだったので、早速2人でタバコをくゆらせながらショッピングセンターと思しき場所へ移動した。
私は「おのぼりさん」感覚というか、観光客気分なので、アメリカのグッズしか置いていないスーパーですら楽しい場所になる。来たばかりなのにお土産を物色したりしていた。
1時間ほど歩いただろうか。チェックインの時間にはまだ早かったものの、手持ちのタバコが切れてしまい、ホテルに預けた旅行バッグの中にある成田で購入したタバコを取りに一度ホテルに戻ることになった。
チェックアウトもひと段落し、閑散としたカウンターにいたコニシキを一回り小さくしたような女性従業員に、先ほどの預り証の半券を見せ、バッグを持ってきてもらうように頼んだ。
5分ほど待たされただろうか。戻ってきたその女性従業員は手ぶらだった。しかも「あなたの荷物は預かっておりません」と言うではないか。この旅行最大の悲劇の幕が切って落とされたのだった。
思わず日本語で「ちょっと待ってよ。あんたに預けたんだよ」と再度半券を見せた。他の従業員もこちらを注目している。多少英語のできるS君は必死に「私の荷物と一緒にあなたにこの人の荷物を預けたでしょ」と問いかけている。
「ちょっとお待ちください」と言って、ミニコニシキ嬢は再び奥に私の荷物を探しにいった。
今度は15分ほど待たされただろうか。ミニコニシキは手ぶらで、その代わりに初老の男性を連れて現われた。この男性、かなりあわてた顔をしている。
男「すみません、お客様、こちらにお越しいただけませんか」
S「はい?」
導かれるまま、奥の応接ソファに二人で腰を下ろした。
男「誠に申し訳ございませんが、お客様からお預かりしたバッグを紛失いたしました」
会話に「ミス」だの「アイム ベリー ソーリー」だのが聞こえれば、いくら英語が苦手な私でも
会話の中身は推測できる。
S「えっと、こちらの男性が言うには・・・」
私「うん、俺のバッグが見当たらないんだろ」
少しムカっときていた。でも言葉が通じない。怒っているのがわかったのだろうか、その男性はこのホテルのジェネラルマネージャーだと自己紹介し、怒っている顔の私越しに、受付カウンターの方を見た。何気なくその視線を追ったら身長は190以上、体重も100kgは優に超えているおまわりさんが警棒を片手にレイバンのサングラスをかけたままこちらを見ている。
私「俺が暴れるとでも思ったのかね」
S「捜査しに来てる感じじゃないですよね」
これって、騒ぐなっていう無言の圧力かい?
私「んで、俺の荷物の件はどうしてくれるのかな」
S君すかさず通訳。
男「お客様のお荷物の中身、バッグにつきましては、当ホテルですべて弁償させていただきます。ついては、中身のリスト、金額などをメモでお出しください。また、当面の着替えなどについては、お客様の方でお買いいただき、清算させていただきます」
最大の悲劇はこうして静かに進行していくのだった。 (続く)
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