「楽聖」の同級生◇レイハ(ライヒャ):ホルン五重奏曲,クランスカ(Hn) | youtubeで楽しむクラシックと吹奏楽

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レイハ(ライヒャ):ホルン五重奏曲

ウラミーディラ・クランスカ(Hn)
チェコ・ノネ・ソロイスツ


 

中高生の時代に毎月毎月穴が開くほど読み込んだ「レコード芸術」誌の広告ページに、どこのレコード会社だったかすら記憶にないのだが、時折「知られざる作曲家」のレコードが紹介されていた。チェコ出身の作曲家アントニン・レイハの名前を知ったのはその時だった。しかしながら、「へぇーこういう名前の人がいるんだ」程度の関心に終わってしまい、実際に彼の音楽に接することになったのは、残念ながらそれよりずっと後のことになってしまった。

 

アントニン・レイハは1770年生まれ・・・というと、あのベートーヴェンと同じだ。しかもただ同い年というだけではない。彼が15歳でボンの宮廷楽団にフルート奏者として就職した際に、そこでヴィオラを弾いていたのがベートーヴェンだったのだ。同い年ということですっかり意気投合した二人は、共にボン大学にも進学し、その友情は終生変わることはなかったという。ベートーヴェンというと我々はつい気難しい頑固者を連想してしまうが、そんな彼にも生涯心を許しあう友人がいたのだ。何とも心温まるエピソードではないか。

 

この作品についてのインフォメーションを書き留めたいところだが、ザッと検索したところでは残念ながら見つけることができなかった。作品に与えられた作品番号の106という数字から察するに作曲者後期のものということなのだろうか。そして、この曲はホ長調というとてもホルンという楽器からは想像しにくい調性を採っていることも特徴的だ。これは、当時のホルン(もちろんロータリー機構を持たないナチュラル・ホルンである)には「ボーゲン」と呼ばれるアダプターのような替え管を付けることで、あらゆる調性に対応することができたため可能だったのだ。もちろん、現代のホルンでは十分対応できるわけだが。

 

レイハは一般的には木管アンサンブル曲が最も知られているように、管楽器の使い方に長けていたようで、この作品でもホルンの伸びやかな音色が印象に残る。ホルンが主人公となる作品は非常に少ないだけに、この曲はホルン奏者にとりとても貴重なレパートリーの一つになってもおかしくないのだが、未だ「秘曲」扱いされているのはただただ残念という他ない。これは、恐らく先述の調性の問題があるのだろう。通常inFで記譜されるホルンの場合、ホ長調はシャープが5つの運指になってしまうわけで、いくらロータリー式のバルブが装備され演奏可能とはいっても、それなりに難しいものであることには違いないからだ。そういう意味では、半音上げてヘ長調に移調した普及版の楽譜などがあれば状況が変わってくるのかもしれない。

 

ところが、これがウィンナ・ホルンとなると事情が違ってくる。ウィンナ・ホルンにもバルブは装備されているのだが、同時に先述のボーゲンも併用している。つまり、A管のボーゲンを使用すれば実質はシャープ1個の譜面で演奏することができるのだ。かつて筆者が所有していたVPOのストランスキーがホルンを吹いたディスクの解説では、「F管シングルのウィンナ・ホルンでホ長調の音楽を演奏するとは至難の業」みたいに書かれていたが決してそんなことはないのである。この、A管のボーゲンは、毎年恒例のVPOのニューイヤーコンサートで「美しき青きドナウ」が演奏される際、冒頭でアップで映される(と思ったら近年はワンパターンを避けて風景を写すことが多いようだ)ウィンナ・ホルンを見ていればわかる。マウスピース(唄口)と楽器本体の間の大きく一周円弧を描くあの部分のことだ。