再評価を期待◇ズガンバーティ:ピアノ協奏曲,ボレット(p),コックス/ニュルンベルクpo | youtubeで楽しむクラシックと吹奏楽

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スガンバーティ:ピアノ協奏曲

ホルヘ・ボレット(p)、エインズリー・コックス指揮 ニュルンベルク交響楽団

 

もう20年くらい前になるだろうか。「レコード芸術」誌で、知られざる名曲の特集があった際にある評論家の方が挙げておられたのがこのイタリアの作曲家ズガンバーティのピアノ協奏曲だった。記事を読んで聴いてみたくなり、当時、たまたま東京に行った機会に、筆者が知る限りここが一番店頭に並んでいるディスクの種類が豊富と思っていた渋谷の量販店のクラシックフロアに行って探してみたのだが、残念ながら見つけることができなかった。この特集では他にフックスの交響曲第3番も挙がっており、こちらも同様に見つけられず落胆しながら帰阪の途についたのだが、今では両曲ともこうしてyoutubeで気軽に聴くことができる。何とも便利で有難い時代になったものだ。

 

この曲の作曲者ジョヴァンニ・ズガンバーティは1841年生まれ。彼が活躍した19世紀後半のイタリアは何といってもオペラが主流でオーケストラ音楽、殊にドイツのそれは無視に近い状態だった。そのような中でそれらの啓蒙を志した音楽家が現れるようになった。この「器楽復興」のムーヴメントにおいてはジュゼッペ・マルトゥッチ(1856-1909)が最も有名であるが、ズガンバーティーもそれに一歩もひけをとらぬ良質な作品を残している。彼も当時の音楽を志す者に例に漏れずワーグナーの影響を多分に受けた。リストの「ダンテ交響曲」を指揮した縁で、自作の出版に当たってはリストの援助を受けたが、さらにはワーグナー自身からも賛同があったのは、当人にとって非常に栄誉だったに違いない。

 

ズガンバーティ唯一のピアノ協奏曲である作品番号15番のこの曲は、1878年から1880年にかけて作曲された。これまでに記してきた内容から、ドイツ風の「ゴツい」音楽を連想するかもしれないが、同じ調性をとるブルッフの第1番のヴィオリン協奏曲の独奏パートをリスト風のピアノに置き換えた、とでも言うべき華やかな音楽だ。いくらドイツ音楽を範にしているとはいえ、やはりイタリアの血がそうさせるのだろう。また華麗な両端楽章に挟まれた第2楽章もとても美しく、このまま埋もれさせておくのは非常に勿体ない良作だと思う。

 

この動画では往年の名ピアニスト、ホルヘ・ボレットがソロを弾いている。強靭な打鍵と明るい音色がこの作品の華やかさを見事に浮かびあがらせている。対するワーグナーの楽劇ゆかりの街のオーケストラは、現代の我々の耳には残念ながらかなり非力に聴こえるが、ボレットの気迫に鼓舞され、曲が進むにつれ徐々にエンジンがかかっていく様子が見て取れるのが面白い。このような素晴らしい作品だけに、当代のヴィルトゥオーゾと一定水準以上のオーケストラで録音してくれれば、この曲の再評価の大きなきっかけになることは間違いない。今後に強く期待したい。