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名無しのリスの話(8)

二匹のリスはカエデ並木の小道を西に急ぎました。

「痛い!」
ある時、キャンディが声を上げました。
メープルは立ち止まって、キャンディに尋ねました。
「キャンディ。
どうかしたのかい?」
キャンディは片足を少し上げて言いました。
「ごめんなさい。
砂利道を歩くのに慣れてあなくて、足を痛めてしまったみたい。」
キャンディの足はパンパンに膨らんで、腫れ上がっています。
「これはまずい!
僕が急いで早く走り過ぎたせいだね。
キャンディ、ごめんよ。」
メープルは申し訳なさそうに言いました。
キャンディの顔は苦痛の余り歪んで、額からは油汗が出ています。
メープルはそれから、
「ここで少し休もう。
キャンディ、ちょっとここで待っていてくれ。」
と言うと、雑木林の中に走って行きました。
しばらくすると、大きなカエデの葉っぱを受け皿を持って、

メープルが戻って来ました。
その受け皿の中には、沢から汲んできた水が入っています。
「キャンディ、さぁ、これをお飲み。」
メープルはそう言うと、キャンディの口元にそれを近付けました。
キャンディは一気に葉っぱの中の水を飲み干しました。
「メープル、ありがとう。
あなたって、優しい人なのね。」
キャンディの表情が少し元気になりました。
(つづく)

名無しのリスの話(7)

「良かった!

気に入ってくれたのね、メープル。
改めて、よろしくね。」
キャンディは握手しようと、右手をメープルに差し出しました。
メープルは握手を知りませんでしたので、きょとんとした様子です。
キャンディは言いました。
「そうか、あなたは握手なんて、した事がないのね。
自分の右手と相手の右手を重ねて、お互い握りしめるの。」
メープルはそれを聞いて、どうしてそんな事をするのか不思議に思って、

キャンディに尋ねました。
「それはどういう意味なんだい?」
キャンディは答えました。
「必ず誰もがって訳じゃぁないけれど、右手は利き手だよね?
その大事な右手をお互い相手に預けるの。
『私はあなたを信用しています』
って、お互いで確認し合う仕草なのよ。
つまり、私はメープルに、
『これからも、私をよろしくお願いします』
って、言いたくて握手しようとしたのよ。
そう、今日から、私はあなたの友達よ、メープル!」
キャンディは優しく、メープルに説明しました。
「そうだったのか…。
ごめんね、意味が分からなくて。
僕の方こそ、これからもよろしくね。」
メープルは、そう言って、少し恥ずかしそうにはにかむと、キャンディの右手を強く握り締めました。
「じゃぁ、早く君のパパとママを探さないとね。
もっと、動く範囲を広げよう。
そうだ!!
木の実が沢山取れるとしたら、この森の西に、どんぐり林がある。
もしかしたら、君はそこに来ていたのかも知れないな。
そこなら、ここから、ちょっとの場所だぞ!」
メープルはキャンディの手を引くと、西の方に向かって走りだしました。
(つづく)

名無しのリスの話(6)

名無しのリスは、少し涙を浮かべました。

彼が独りぼっちで平気だなんて、本当は嘘だったのです。
本心はいつも孤独で淋しいものだったのです。
でも、現実は彼自身の他に誰にも頼る事が出来ず、その悲しい事実を受け入れなければ、

これまで生きては来られなかったのでしょう。

キャンディは名無しのリスの事を不憫に思いました。
そして、彼が出会った時から、どうしてあんなに自分に対して、

おどおどした態度だったのか分かりました。
「そう。
あなたは今まで、ずっとひとりぼっちで毎日過ごしてきたのね。
私、あなたの事をぐずでのろまなな奴だと誤解していたわ。
ごめんなさい。
でも、せめて私と過ごす、ちょっとの間だけでも、何か名前を付けた方がいいと思うの。
どんな名前がいいかしら?
そうね。
あなたに会った、この森の名は、メープル・ブラウン・ウッズ。
あなたの事を今から、メープルと呼ばせてもらうわ。
どう?
素敵な名前じゃない?」
名無しのリスは、キャンディの言葉を聞いて、急に明るい表情になりました。
「メープル…。
とても気に入ったよ。
キャンディ、素敵な名前をありがとう。」
名無しのリスは、この時から、メープルになりました。
(つづく)