HILLのブログ -10ページ目

名無しのリスの話(5)

それから、名無しのリスとキャンディの二匹は、キャンディの両親を探して、森の中を歩き始めました。

「君はどっちの方から来たんだい?」
名無しのリスは尋ねました。
キャンディは東の方にある、ぶなの大木を指差してから、言いました。
「あっちの方よ。
でも、両親とはぐれてから、やみくもに歩き回ったから、元に居たのがどの辺かは見当も付かないわ。
それと、私の事はこれからキャンディって呼んでいいわ。
ねぇ、そう言えば、あんたの名前を聞いてなかったわ。」
名無しのリスは少し、戸惑った表情をしました。
「何?
あんた名前がない訳じゃないでしょ?
それに、いつまでも私から、あんた呼ばわりされるのも、癪に障るでしょう?
あんたの事を何て呼べばいいの?」
名無しのリスの、のろまな態度にイライラして、キャンディが言いました。
「キャンディ。
僕は名前ってものがないんだ。
物心ついてから、僕の周りには、君の様にバパやママなんていなかったし、

まして自分以外のリスに会うことすら、今日が初めてなんだ。
そんな僕に名前が必要だったと思うかい?」
名無しのリスは言いました。
(つづく)

名無しのリスの話(4)

「ちょっとあんた、待ちなさいよ!!」

名無しのリスがキャンディに背を向けた時、キャンディが叫びました。
名無しのリスは、大声に驚いて、立ちすくみました。
「私はあんたに、道に迷って困っていると言ったのよ。
それを聞いて、あんなは何も思わないの?
それとも、あんたは迷子になったレディを見捨てて、平気で立ち去る様な薄情な奴なの?」
キャンディはすごい剣幕で、名無しのリスに向かって怒鳴り散らしました。
名無しのリスは、キャンディの方へ振り返りました。
「そんな事言われたってぇ…。」
名無しのリスは、そう言ってから後、言葉を詰まらせました。
彼は他のリスと関わった事がまったくありませんでしたから、

こういう時にどう対処したら良いのか分からなかったのでした。

「ねぇ、あんた、この森に長く住んでいるんでしょ?」
キャンディは名無しのリスに尋ねました。
彼は、
「ウ…ウン。」
と、小さく頷きました。
「じゃぁ、この森の事はきっと隅から隅まで知り尽くしているはずね。
あんた、私がパパとママに会えるまで、道案内をしなさい!
どう?
嫌とは言わせないわよ。」キャンディは何とか、彼に道案内をしてもらおうと必死です。
その、鬼気迫ったキャンディの強引さに押されて、名無しのリスは、

しぶしぶ彼女の道案内をするハメになってしまいました。
(つづく)

名無しのリスの話(3)

キャンディは言いました。
「本当にごめんなさい。
もう恐がらなくてもいいわ。
私の名前はキャンディ。
ウェスト・チェリー・ブロッサムの森からやって来たの。」
名無しのリスは、この森の事しか知りませんでしたから、この娘が言っている、チェリーなんとか言う、
余所の森の事なんか言われても、まったくピンと来ませんでした。
話を親身に聞いている様で、実はキョトンとしていたのでした。
キャンディはそんな、名無しのリスの様子なんか、お構いなしに、話を続けました。
「私の住む森は今年の夏、虫の被害がひどくて、木の実の出来がすごく悪かったの。
それで、もうすぐやって来る冬に備えて、私の両親とこの森まで木の実を取りに来たの。
でも、木の実を拾うのに夢中になって、両親とはぐれてしまったの。」
キャンディの目には、うっすら涙が光っています。
名無しのリスは、とにかく、この娘が道に迷って困り果てている事だけは理解出来ました。
「そうかい。
それは大変そうだね。」
名無しのリスはそう一言だけキャンディに向かって言うと、その場から立ち去ろうとしました。
(つづく)