名無しのリスの話(5)
それから、名無しのリスとキャンディの二匹は、キャンディの両親を探して、森の中を歩き始めました。
「君はどっちの方から来たんだい?」
名無しのリスは尋ねました。
キャンディは東の方にある、ぶなの大木を指差してから、言いました。
「あっちの方よ。
でも、両親とはぐれてから、やみくもに歩き回ったから、元に居たのがどの辺かは見当も付かないわ。
それと、私の事はこれからキャンディって呼んでいいわ。
ねぇ、そう言えば、あんたの名前を聞いてなかったわ。」
名無しのリスは少し、戸惑った表情をしました。
「何?
あんた名前がない訳じゃないでしょ?
それに、いつまでも私から、あんた呼ばわりされるのも、癪に障るでしょう?
あんたの事を何て呼べばいいの?」
名無しのリスの、のろまな態度にイライラして、キャンディが言いました。
「キャンディ。
僕は名前ってものがないんだ。
物心ついてから、僕の周りには、君の様にバパやママなんていなかったし、
まして自分以外のリスに会うことすら、今日が初めてなんだ。
そんな僕に名前が必要だったと思うかい?」
名無しのリスは言いました。
(つづく)
名無しのリスの話(4)
「ちょっとあんた、待ちなさいよ!!」
名無しのリスがキャンディに背を向けた時、キャンディが叫びました。
名無しのリスは、大声に驚いて、立ちすくみました。
「私はあんたに、道に迷って困っていると言ったのよ。
それを聞いて、あんなは何も思わないの?
それとも、あんたは迷子になったレディを見捨てて、平気で立ち去る様な薄情な奴なの?」
キャンディはすごい剣幕で、名無しのリスに向かって怒鳴り散らしました。
名無しのリスは、キャンディの方へ振り返りました。
「そんな事言われたってぇ…。」
名無しのリスは、そう言ってから後、言葉を詰まらせました。
彼は他のリスと関わった事がまったくありませんでしたから、
こういう時にどう対処したら良いのか分からなかったのでした。
「ねぇ、あんた、この森に長く住んでいるんでしょ?」
キャンディは名無しのリスに尋ねました。
彼は、
「ウ…ウン。」
と、小さく頷きました。
「じゃぁ、この森の事はきっと隅から隅まで知り尽くしているはずね。
あんた、私がパパとママに会えるまで、道案内をしなさい!
どう?
嫌とは言わせないわよ。」キャンディは何とか、彼に道案内をしてもらおうと必死です。
その、鬼気迫ったキャンディの強引さに押されて、名無しのリスは、
しぶしぶ彼女の道案内をするハメになってしまいました。
(つづく)
名無しのリスの話(3)
キャンディは言いました。
「本当にごめんなさい。
もう恐がらなくてもいいわ。
私の名前はキャンディ。
ウェスト・チェリー・ブロッサムの森からやって来たの。」
名無しのリスは、この森の事しか知りませんでしたから、この娘が言っている、チェリーなんとか言う、
余所の森の事なんか言われても、まったくピンと来ませんでした。
話を親身に聞いている様で、実はキョトンとしていたのでした。
キャンディはそんな、名無しのリスの様子なんか、お構いなしに、話を続けました。
「私の住む森は今年の夏、虫の被害がひどくて、木の実の出来がすごく悪かったの。
それで、もうすぐやって来る冬に備えて、私の両親とこの森まで木の実を取りに来たの。
でも、木の実を拾うのに夢中になって、両親とはぐれてしまったの。」
キャンディの目には、うっすら涙が光っています。
名無しのリスは、とにかく、この娘が道に迷って困り果てている事だけは理解出来ました。
「そうかい。
それは大変そうだね。」
名無しのリスはそう一言だけキャンディに向かって言うと、その場から立ち去ろうとしました。
(つづく)