国境を越えて商業取引が拡大し、投資や企業買収が増えることは、戦争以上に、その土地の社会や政治の構造を変える、と思います。

 

Katherine TaiSTEPHEN S. ROACHを読み比べるとき、私はTaiの「社会契約」や「安全」、「自律」の主張を支持します。富や効率、生産性は、それ自体が目的ではないからです。他方、The Economistは自由貿易推進派のジャーナルです。どのような自由貿易なら受け入れられるか、ではなく、どのような国家が自由貿易にとって望ましいか、を考えます。

 

5月16日の習近平とプーチンの会談が43回目であることを指摘した記事で、The Economistは、ロシアへの制裁に関連して中国の貿易を制限する西側の措置に、習近平が激怒した、と書いています。民主主義や国際秩序、領土の正当性に関する要求で、中国とロシアの指導者は「無制限の協力関係」を確認しています。

 

別の記事は、台湾や尖閣諸島、そして、南シナ海で中国が推進している「グレーゾーン」の侵略を取り上げます。中国は、アメリカ軍が関与するような戦争を避けながら、少しずつ合意を侵し、軍事的圧力を高めます。

 

・・・紛争中の海域を占拠するための沿岸警備隊と民兵、サービスを妨害するための秘密作戦とサイバー攻撃、決意を弱めるための偽情報と政治的浸透など。それはライバルに屈辱を与え、疲弊させ、士気を低下させ、米国とその同盟国の間に亀裂を生じさせることを目的としている。

 

ウクライナ、ジョージア、モルドバ、台湾。プーチンと習は、民主化を求める「カラー革命」を弾圧します。アメリカはこれに応える国際システムを示す必要があります。

 

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The Economistは、同時に、アメリカの憲法は、ドナルド・トランプのようなデマゴーグが独裁を実現することへの予防措置が取られているのか? トランプのような破壊行為に対するアメリカの耐久度が問われている、と書きます。

 

・・・アメリカ憲法をコピーしたラテンアメリカ諸国では、各地で独裁者がその制限を破った。イラク、イタリア、日本など、アメリカが憲法を作らせた国で、これまで独裁者が出現しなかったのは、別の理由があったからではないか。すでにアメリカ最高裁判所の判事には信頼を損なうケースがあり、論争されている。

・・・なにより、脆弱な革命政権を維持するために建国時に認められた非常事態の大統領権限には、独裁者が利用できる多くの抜け道がある。

 

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ロシアのクリミア併合、ウクライナ侵攻と、それに対する経済制裁、企業の撤退、国際貿易・ドル決済網からの締め出し、ロシア・中国の経済協力。金融ビジネスが導く市場統合のチャンスに投資家が殺到する時代が終わり、大国間の威嚇や国際合意からの離脱を、自国にとって有利であれば望ましいとみなす、軍事=経済大国優位の時代になったのです。

 

「トランプ前大統領に有罪評決、米大統領経験者で初 「口止め料」虚偽記載の裁判」BBC News JAPAN 2024年5月31日

https://www.bbc.com/japanese/articles/clllrrpnq5no

 

トランプがアメリカの司法システムを権力闘争の道具としてしか見ない姿勢は、民主主義の統治能力を深く損ないます。ウクライナ侵攻の手順を観て「天才」と称賛したのであれば、選挙戦の終盤で、ウクライナや台湾海峡、南シナ海、北方領土、ガザの情勢悪化、軍事衝突が起きることに、歓喜するかもしれません。

 

あるいは、プーチンやトランプが権力を握る世界でなら、台湾への軍事的圧力を最大限に高めて、統合への合意を達成できる、と中国の指導部は考えないでしょうか? 国際秩序の性格をめぐる冷戦が始まり、新しい「ベルリンの壁」、緩衝地帯、紛争海域を、しだいに繋ぎ始めます。