SACM M1935Aとフランス陸軍のトライアルを争ったM1935S | ジャック天野のガンダイジェスト

ジャック天野のガンダイジェスト

スモールアームズ(小火器)に関するエッセイです。同じアメブロで書いていたブログを継続して、不定期で更新して行きます。

1935年のフランス陸軍次期サイドアーム・トライアルでSACM M1935Aと争ったのがM1935Sでした。フランス陸軍の要求は7.65X22mm(7.65mmロング弾)を8発収納する自動拳銃ということだったので、スペック上はSACM M1935Aとあまり変わりません。外観上の大きな違いはM1935Aがハンマー内蔵式なのに対して、M1935Sはハンマー露出式(ラウンドハンマー)という点ぐらいでしょう。作動方式はショートリコイル、トリガーはシングルアクションでした。ただ、SACM M1935Aのようにトリガー、ハンマー、シアなどがひとつのユニットになっているわけではないので、製造が容易でした。そして、この点がフランス陸軍のトライアルで最終的に勝者となった理由だったのです。トライアルではSACM M1935Aに当初は軍配が上がりました。しかし、ナチスドイツとの戦争が不可避となってきた段階で、SACMの製造能力はフランス陸軍の要求をはるかに下回るものだったのです。そこで、フランス陸軍は1938年に国営企業であるManufacture d'Armes de Saint-Etienne(サン・テティエンヌ造兵廠、略称MAS)にM1935Sの製造を依頼したのでした。しかし、1940年にはドイツ軍がフランスに侵攻し、MASの工場は占拠されてしまいます。ただ、さすが国営企業だけあって、MASの工場労働者たちはドイツ軍が工場に到着する以前に工作機械を破壊したり、持ち去ったりしていました。このため、ドイツ軍はSACMのように(あるいはベルギーのFNのように)、拳銃の製造を続けさせることができませんでした。フランスが解放されると、MASはふたたびM1935Sを生産しました。その後、M1935SはManu-France(MF)、Manufacture Nationale d'Armes de Chatellerault(MAC)、Manufacture National d'Armes de Tulle (MAT)などでも製造されました。