ハイセイコー (競馬場のオッサンと兄ちゃんの話) | ☆まけうまブログ★

☆まけうまブログ★

徒然なるままに日暮らしスマホに向かひて心に浮かぶよしなしごとを競べ馬の有様とともに書きつらねる自己満ブログ。
前半はよしなしごと、後半はレース回顧。
競馬道は一にも二にも検証の積み重ね。怠ればハズレ馬券が山と成す。

茨城県というのは何とも言えずとっぽい地域で…
競馬ブックなんか拡げてるとこんな会話が始まる。

[また予想っすかぁ、今週は何のレースすか?]

[オークス]

[マジっすか、ブライアン出んすか?]

[出ねぇよ!]

つか、牡だし、引退したし、もう死んだし。

[じゃあ、何出て来んすかぁ?]

持っていた競馬ブック週報を手渡す。

[知んねぇ馬ばっかっすね、ブライアン出たら楽勝じゃないっすか]

答えるのも面倒臭くなって放っとくことにする。
そいつはページをめくって、巻末のフォトパドックを見ながら、いきなり感嘆の声を上げる。

[こいつヤベぇっすよ、全身銭浮きまくりじゃないすか]

何でそんなことだけ知ってるんだよ、おまえは(-_-メ)

そういう連中にせがまれて競馬に連れていくと…

[ヤベぇ、馬っすよ、本物っすよ!…つか、こんなちっちぇえ所で走るんすか?]

[そこはパドック、下見する所だよ]

[つーか記念撮影しましょうよ、トキノミノルの銅像はどこにあんすか?]

[あれは府中]

[えーっ!中山には何かないんすか?]

[ハイセイコー]

[ヤベ、超有名じゃないっすか!どこっすか?]

[おまえの後ろだよ]

[おぉー!]

奴らは、通りすがりのカップルに[撮って貰っていいすか?]と携帯を手渡すと、本家大井の模造品のようなピカピカのハイセイコーに馬乗りになって満面の笑みを浮かべていた。

[何やってんすか、一緒に入りましょうよ]

ここで警備員が飛んで来たら、中山出入り禁止になる前に、奴らを置いて自分だけ逃亡しようと企てつつ、引き攣った苦笑いを浮かべて、仕方なく一緒にファインダーに収まるのであった。

夕暮れ。
正門の横のセブンが酒屋に変わった辺りでクダ巻いてたら、ちょうど関係者通用口からタクシーが出て来た。
見ると、後部席に井崎脩五郎氏と鈴木淑子氏が乗っていた。

[おぉ!井崎さーん!]

奴らは駐輪場の柵に登って、わっしょい状態で諸手を振ってはしゃいでいた。
苦笑いな鈴木氏の隣で、井崎氏は座席から身を乗り出して丁寧にこちらに向かって頭を下げていた。
ある意味、感動的な光景であった。

[やべぇ、超いい人だぁ]

テンション上がりまくりの単なるアホどもは、いつかこの日の思い出を懐かしく思って、また競馬場に戻ってくることだろう…
いや、すでに忘れてそうな気がしないでもないが。

そんな訳で、自分はやっぱり一人で競馬場に行くのが性に合っている。
買いたいレースだけ買って、寝たい時にビール飲んで昼寝して、やおら勝負に出る。
そういうスタイルが出来上がってしまうと、人に合わせて無駄な気を使うのが億劫になるんだなぁ。

浦和や船橋なんかは相変わらずの様相だけど…
府中とか、本当に様変わりしてしまった。
何と言っても、一番は、オッサンに話しかけられなくなったことだ。
今のメモリアル60とオークススクエアの間あたりで、ちょっと昔は猛然と走って来るオッサンとよく遭遇した。
なぜ走っているのかはよくわからない。
ちなみに原良馬氏が血相変えて走ってくるのを、この場所で2回見たことがある。
きっと何かあるのだろう。

[おぅ、今何来た?]

親父は突然脚を止めて、声をかけてくる。

[ユタカっすよ]

武豊さん、あの頃は当然のように一番人気で圧勝だった。

[やっぱり強いかぁ]

親父、苦笑い。

[で、2着は何だ?]

[政人]

[なに、政人?これぁ、ついたなぁ…やっぱりなぁ、ここで政人来たかぁ]

外れたけど、柴田政人が来たんじゃしょうがねぇな、という奇妙に爽快な雰囲気がなぜか当時の競馬場にはあった気がする。


ちなみに…

[うわぁ、村本だよぉ!]

怖いのは散々わかってたのに手が延びてなかった時、どの馬券野郎も最低30回は吐いた台詞。

[だからこういう時の村本は押さえとかなきゃ]

こっちが萎れてる横で、満面の笑みを浮かべてつぶやく親父が必ずいたものだ。

しかし、こういう親父どもは会話を打ち切ることもなく、自分の言いたいことが言い終わると、次の用事を思い出したかのように、絶妙の間でその場からフェイドアウトしてゆくのである。


[俺はサンスポの水戸からずっと買ってんだよ]

府中のパドック裏の木陰で、どうせ忘れた頃しか来ねぇけどな、と言いたげな含みの滲んだ何とも味わいのある表情でつぶやいたオッサンは、水戸と心中することなく、今日も元気で府中に来ているのだろうか?

そのかわり、前はほとんどなかった光景を最近たまに見かけるようになった。
自分が芝生でビール飲みながら、ぼんやり新聞見ていると、20mくらい先に全く同じことをしているお姉さんがいた。
鬱陶しげに陽射しと格闘しながら芝生に腰を据えていた彼女は、舌打ちするような勢いでバッグを引きずって立ち上がり、だるそうにスタンド方面に歩き去ってゆく。
買い目は決まったのだろうか…当たりそうな気配が全くしない後ろ姿だった。
当たる気はしないけど、やっぱり買ってしまう。
それだけのことで…
競馬場に来ている根本的な動機は、たぶん俺と同じなんだろうな…何となくそんな気がしながら、自分はそのレースを[見]して、昼寝した。

競馬場から人がいなくなるまでスタンドに佇む。
府中にはニニ・ロッソのトランペットが鳴り響き、掃除のおっちゃん、おばちゃんが、プロの手際を見せ付けて、欲望の吹き溜まりのようなゴミ溜めをピカピカの競馬場に戻してゆく。
17時過ぎれば電車も空くし、何より競馬場の風や空気が一番心地よく感じる時間。

どこか切ないのが、心地よい。

恋する気持ちみたいだ(・o・)

そんなことを思って1コーナー近くのスタンドの椅子から馬場を見ていたら、自分と全く同じ風情で、何をするでもなく、時折手持ち無沙汰に携帯をいじってぼんやり椅子に佇んでいるお姉さんが…。

JRAは、かつての面影もないほど快適な空間を競馬場に作り上げた。
その結果、競馬場は変質した。
西門前の露天飲み屋から人が消えて、居心地悪く感じるようになったオッサンは、多摩川や京王閣に腰を据えて売上に貢献しているのかもしれない。
ただ、変質したことによって、東京競馬場という場所に存在するもう一つの本質を、感覚的に捉えてやってくる人が現れるようになったのだろう。

府中という空間の魅力をアンテナで捉えるのは、むしろ女性の感性の方かもしれない。

確かに、中山でそんな光景を見たことはない。

吉行淳之介あたりが見たら、小説に切り取りそうな表情を後ろ姿に滲ませて、腰を降ろしている。

噛み締める一人の時間に吹き込んでくる、夕暮れの府中の風。


やがて彼女が立ち上がり、独り占め状態になったフジビュースタンドに佇む。


晴れた府中で、レースの直前に富士山が霞んで見えなくなった時…
ムラ駆けの怪しい日本の人気馬が全部飛んで、香港とドバイのワンツーになったんだよな。
馬連147倍、安田記念。