楪「アンナ……どうしたの?」
早瀬を見た一条の様子が豹変した。顔見知りのような反応だが、いつもの人懐っこい一条とは思えない反応をしていた。まるで遭いたくなかった人物に遭ったような、どう反応していいか分からないといったような動揺を見せていた。
アンナ「あの……お久しぶりです……」
千晶「えぇ。お久しぶりです。」
遙斗「早瀬、彼女と知り合いなのか?」
千晶「はい。とはいえ、中学時代の後輩だっただけです。私が気にかけていたというよりかは……」
アンナ「あっ、あの!」
早瀬の話を遮るように一条は声を上げる。その声を聞いた早瀬は一条の気持ちを汲んだのか、話を切り上げる。
千晶「ま、ここであなたと昔話をする時間はありませんね。 先輩、すぐに帰還して報告しましょう。」
遙斗「あぁ、そうだな。」
踵を返し、その場から去ろうとした鬼嶋達を上ノ原は呼び止める。
楪「待って。詳しい話は本部からされるってどういうこと?」
遙斗「そのままの通りだ。今お前達にこちらの情報を話しても混乱させるだけだ。 またいずれ遭うことになるだろうな。今日はここで失礼するよ。」
千晶「では、また近いうちに。」
そう言い、鬼嶋達はその場から去っていった。その場に残された上ノ原は、声を上げたきり顔を上げない一条へ心配そうに声をかける。
楪「……ねぇアンナ、あの人とはどんな……」
アンナ「……そういえば!爆弾!大丈夫でしたね!」
楪「え?えぇ……」
一条は上ノ原の質問を遮るように声を上げる。その様子はいつも通りの一条だったが、どこか無理していつものように振る舞っているようにも見える。
アンナ「さっきの人、きっとデモンズですよね?あんなに強い人もいるなんて……早く帰って報告しましょう!ね!」
楪「……ねぇアンナ、あの人はアンナにとって……」
無理して明るく振る舞う一条を気遣ってか、上ノ原は再び質問しようとする。しかし返ってきたのは、明確な拒絶だった。
アンナ「何もありません。本当に。」
楪「アンナ……」
アンナ「ただ中学時代の先輩に会って驚いただけですから、本当に。」
楪「……そう。」
一条はこちらに振り向きもせずそのまま答えた。その様子に上ノ原もそれ以上質問を投げかけられなかった。そのまま一条が歩き出すと共に、上ノ原もその後をついていく。結局その日、一条と上ノ原は事務所に着くまで一度も会話することはなかった。
─デモンズ本部 最下層〔王の間〕─
公由「おぉ……!とうとうここまでになられましたか……!」
中心にある棺のような物体、ソロモンに向けて盟神は感嘆の声を漏らす。ソロモンの姿は今までの姿とは大きく異なっていた。棺を覆っていた肋骨のような部位は枝のように伸び、壁に根付いていた。その1本1本が、まるで血液が通っているかのように脈打っていた。より生物らしい見た目となったソロモンに、盟神は感動していた。
公由「いよいよソロモン様復活の時は近い!ソロモン様がもたらす真なる平和が齎された世界……それを遂に、目の当たりにすることができる!!」
禍帆子「そうですね……ゲホッ」
盟神の付き添いである病垂は周囲に設置された檻に目を向ける。これまで裏切り者や敵対組織の人間を数多閉じ込めていたそこは既に空となっていた。吾妻が死に、しばらく活動していなかった間、デモンズは着々とソロモン復活に向けた準備を進めていたのだ。
公由「さて……ソロモン様復活には最後の工程が必要だ。そのためには…… 病垂君。出かける準備をすると他の親衛隊の皆に伝えたまえ。」
禍帆子「かしこまりました……ゲホッ…… ちなみにどちらまで……?」
病垂の質問に、盟神は狂気を孕んだ笑みと共に答える。
公由「SWORD本部だ。」